レムナントホープ

あさひ

第1話 前章 過去の英雄【ロストヒーロー】

 真夜中のコンビニは人が少なくて

静けさに包まれている。

 機械が忙しなくコンビニの業務に勤しむ中で

ジャージ姿の少女が新作スイーツを探していた。

「プリン…… 杏仁豆腐……」

 どうやら究極の二択を目の前に

考え込んでいる。

「プリンはカロリー高いよね……」

 杏仁豆腐に転びかけた感情を

ディスプレイに表示されたカロリーが覆した。

「えっ? ヘルシー志向が組み込まれているの?」

 意外過ぎて驚いた

数年前に消滅したと言われる文献が解析されたらしい。

「さーちゃんだったら飛びつくかもね」

 少し寂しそうにほくそ笑んだ

機械しかいないこの空間だからか

普段は人に見せない表情をディスプレイが反射する。

 レジをさっさと済ませ

ポータルで自分を玄関前に転送した。

 ドア前では

美少女が待機している。

「おかえりなさい」

 冷たい態度だがれっきとした人間で

妹に当たる少女【雨宮アイン】は

少し心配そうに体を見回した。

「よかった……」

 安堵の一言はあまりに温かみを感じた

しかしすぐに態度が戻る。

「あんたは生きるのが仕事なんだから買い物は私が行きます」

「ごめんね……」

 苦笑いをしながら家に入る姉

そして袖を掴みながら共に家に戻るアイン

この状況に少しだけ安心している自分がいた。

「まさか漫画買ってないでしょうね?」

「えっ? ダメだった?」

「懲りないね……」


 喧騒はないが

違う音に溢れる世界には

一定の賑わいが存在する。

「おね…… レイン?」

 朝食をモシャモシャ食べている姉に

依頼完了書を見せてくる妹は心配そうにこちらを窺う。

「ん? どした?」

 依頼書の報酬額があり得ない数字だが

そこではなく実働報告の部分を指さしていた。

「ほとんど徹夜で休む時間ってあったの?」

 不思議そうに数字を見ながら思い返し

あることに気づく。

「そういえば終わるまでずっと睨めっこだったかもね」

 少し涙目になりながらも

強がりを前面に出しながらどうしたらいいかわからなくなった。

「なんで泣くの? 足りなかったかな……」

「お金は大丈夫だから…… 自分を大事にしてよ……」

 目が少し虚ろになる姉が

心の奥底に秘めた闇を口から吐き出し始める。

「私が足りないのはいけないことなんだよ?」

 そんなことなかった。

「みんなを殺したのは……」

 やめてくれ。

「私なんだよ」

 嘘を吐くな。

「お姉ちゃん…… ごめんね」 

 心からの叫びは目の前にいる捕虜には届かない

あの日にずっと縛られてる。

「ありがとう? なんか温かいね」

 狂いながらも妹の優しさで戻っていった

朝食を終えると手を引っ張られた。

「工学設計の続きって大丈夫だよね?」

 アインは設計士を目指しており

姉である【雨宮レイン】は先生を引き受けている。

 特殊な作図様式を誇る仕事場に

姉は時間を潰しながら

妹は必死に作図するという

家庭教師の漫画によくある情景が広がっていた。

「ここの図式って簡略法ってあるの?」

「この点と線の中心に定規で向かって……」

 先ほどまで悩んでいた部分を簡単に

進ませる姿に感嘆の声をひそやかに上がらせる。

「二回前の工程に引っ張られてるね」

 確かに図面を同じだと錯覚しており

そして癖になっていた。

 後ろの本棚に専門書を取りに行くレイン先生を

見つめながら錯視する。

「雨宮指揮官……」


 前章終了

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 レムナントホープ あさひ @osakabehime

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