Checkmate
みなみくん
第1話Checkmate
Checkmate
その言葉を発する瞬間が最も好きだった
どんな実績を持つ者も
どんな自信を持つ者も
私と対戦すれば敗戦履歴がつく
この世界で私はキングだった
鼻にかける気持ちはない
相手を見下す気持ちもない
紛れもない事実であるから
それだけのことだ
最大限に思考を巡らせ
心理を読み取り
その末に勝ち取る勝利は醍醐味である
Checkmateと響きわたる場面
それが私の全てだった
「お兄ちゃん、有名な人なんだってな」
どんな事にでもあることだ
不敗神話の打ち破りや記録の更新
私はどこかで自分はそれに当てはまらないものだと思って傲りをもっていたのかもしれない
相手のチェスプレイヤーを殺してしまった
記憶は曖昧だが
何かを言われ、頭が真っ白になり
気付いたら絞殺していた
どう逃げたか朧気にしか覚えていないがわたしはその場から逃走した
無我夢中で逃走したが、冷静になるにつれ一気に罪悪感が押し寄せた
そしてもう二度と触れる事のないチェスの世界を思うと逃亡する気持ちも無くなってきた
その矢先、寂れた路地裏の一角で老刑事に観念する次第となった
老刑事は言った
「あん時言われたかもしんねえな、兄ちゃん。
兄ちゃんの世界で言うチェックメイトってやつだ。悪いな、キングを討ったのがこんなさえないポーンで」
老刑事の皮肉は、どこかユーモアがあり気遣う響きを感じた
そして思い出した
Checkmate
その言葉で、わたしは我を失い相手を殺してしまった
「俺も定年でよぉ、これが最後の事件なんだ」
老刑事は少し寂し気な眼で手錠を取り出した
「お互い、ラストゲームだな」
刑事は私の手に手錠をかけた
私は静かに、ハッキリした口調でプロになり初めてとなる言葉を言った
「リザイン(投了)」
「最後の相手が貴方で良かった」
私は少しだけ、笑って言った
Checkmate みなみくん @minamikun
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます