世界一の大犯罪者が記憶喪失になった件

恋する子犬

第一章 大豪邸での一週間

第0話 脱獄

『緊急事態発生!!緊急事態発生!!無限牢獄より、囚人が一名脱走しました!!』


 そんなアナウンスが、世界最大の大監獄...〝カルケル〟全域に発せられた。

 カルケルは天空に創られた、世界中の極悪人が強制的に収容されている世界最大の施設である。世界政府が直に携わっており、施設の警備は24時間365日フル稼働。何層にも渡って、を遮断させる壁が監獄を覆い尽くし、囚人一人一人に常に監視役が配属され、脱走を試みることすらも不可能な最強の監視システムを導入している。

 しかし今宵、そのカルケルから一人の男が脱走したのだ。


「ハァ、ハァ...!!」


 カルケルを脱走した男は現在、世界政府の手から必死で逃走していた。


「絶対に逃がすな!!」

「捕えろ!!」


 施設の外には巨大な樹海が覆っていて、男は呼吸を乱しながらも、とんでもない身体能力で追っ手の目を欺いていく。


「ハァ、ハァ...!!俺が、何をしたって言うんだよ!」


 近づいてくる追っ手にそう叫びながら、男は無我夢中で逃げ続ける。一晩かけて樹海を抜けた男の目に映ったのは、崖の下に薄っすらと漂う雲海。

 カルケルは天空に聳える大監獄ゆえ、脱走したところでこの天空地から逃げ切ることなど不可能だ。男は完全に追い込まれた。


「政府のトップから、貴様の事を任されている。大人しくカルケルに戻るならば、傷は負わせん...」


 キリッとした顔をした二十代くらいの黒髪の男性が、銃を構えて言った。


「誰があんな〝地獄〟に戻るか!!」


 そう言って、逃げ行く男は崖の縁へと足を運ぶ。そして彼は、何を思ったのか薄ら笑いを浮かべた。


「ふふっ...そんなに俺を閉じ込めておきたいか?世界政府...」

「当たり前だ。貴様は、歴史上で最も極悪な大罪を犯したのだからな」

「そうか...。そこまで言うならさ。俺を、




 ―――捕まえてみろよ...」




 男はニヤッと笑いながら、後ろに体を倒し始める。


「....!?待て!!」


 ここは、地上からおよそ一万メートル離れた天空の大地。そこから落下すれば一溜りもないだろう。

 しかし男は何の躊躇いも無く、背中から落下を始めた。


(あばよ、世界政府...。俺は悪人じゃない。悪人なのは、



 ―――だ!!)



 終始笑みを浮かべながら、この世界の歴史上最も強大な罪を犯した男は、下界へとその身を投じた...。

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