第20話:話し合い

話が長かったのでまとめると、親友さん曰く──


 この世界の大きな国には昔から、それぞれ時間が分かる魔道具が一つだけ存在する。魔道具といっても唯一、人間が干渉できない魔道具だ。破壊することも傷をつけることさえも出来ないらしい。


そしてそれはどの国でも、大きな街の中心にそびえ立っている。


 その聳え立つ巨大な魔道具は日が昇る朝、日が沈む夜、その中間くらいの時間で昼に、低い音の鐘〖本鐘〗を鳴らす。


その鐘がなるのは大体〖六時〗〖十二時〗〖十八時〗。


 そして、本鐘を鳴らす前に、高い音の鐘が鳴る。それが鳴ったら大体、本鐘が鳴る一〇分前らしい。


 なので、昔から待ち合わせなどをする場合は、本鐘ではなくその前に鳴る高い音の鐘で約束するんだそうだ。


 親友さんはそれを、やっぱり委員長から聞いたらしい。そして話の後に指差して例の魔道具を教えてくれた。それは大きく白い柱のようなものだった。


あんなものあったのか……全然気付かなかった。



 また俺の知らない情報を……情報集めるの大好きパパだな! それがクラスメイト達の頼みの綱なんだろうけど。ある程度自立させて、依存を無くさないと委員長無しでは何もできないクラスメイト達になっちゃうぞ? どうでもいいけど。


それはそうと──女神さま。


《どうしたの?》


《あの白い柱のような魔道具って?》


《ああ、あれね……実は私も詳しくは知らないのよね。私が担当するようになったのは初代勇者からだし、その前から存在していて初代勇者はそういうものだって受け入れて気にしてなかったから。》

言っちゃえばただの時計だしね。と女神さま。


 なるほど。じゃあ俺も気にしなくてもいいか……。一度くらいは近くに行って見ておきたい感はあるけど。



◇───────◇───────◇



 それから俺と女子五人は王城へ戻り、俺も女子達も制服を洗濯に出すために、それぞれ一度自室へ戻った。もちろん離れてから転移で戻った。


 俺は買ったばかりの服へ、女子達は訓練着に着替えて再度集合。女子達に連れられて何故か食堂へ行くと、洗濯物は私どもに。と言うメイドさんが三人待機していたので、お願いして中崎に会ってしまう前に、αちぃの部屋へ移動した。


 買った服に着替えたら、女神さまに似合ってると言ってもらえて嬉しかったですまる



◆───────◆───────◆



 そしてやってきましたαちぃの部屋! 見た感じ、俺の部屋より小さい……言わないけど。


 ベッドはセミダブルくらいが二つ並び、奥行きはあまりなくて例のごとく換気のためか、開けてあるバスルームは風呂ではなく、シャワー室みたいな仕様だった。


 他人の部屋なんて、初めて見たので今知ったが、俺の部屋はおそらく勇者仕様。これは気軽に、俺の部屋の場所なんて教えられませんね。教える気なんてないけど、入るところを見られるのもアウトだと思われる。気を付けよう。


「お邪魔します」


「いらっしゃい。適当に──好きなとこに座ってね」

意味ありげな顔で無茶を言うαちぃ。


 この部屋は俺の部屋のように、十分なスペースもなければソファーも一人用が二つ、小さいテーブルを挟んで置かれているだけだ。


そして現在この部屋には俺と女子五人。


 まともに座れる場所といえばベッド、一人がけソファーが二つ。当然ベッドはアウト、無し! そうなると残るはソファーだが……女子一人と向かい合う形になる。無理。


ど・う・し・ろ・と?


……もう床でいいか。


「んー、じゃあ應地おうじ君と雪葉ゆきはでソファー使って私たちはベッドに座ろうか」

慈悲を服屋に置いてきたのか親友さん!


 俺は驚愕する。しかし、他の女子も異論はないようで、座ってしまいあっという間に場が整った。計画的犯行の気配……。


「まあこういう位置になるよね。だってこの話し合いの主役は、二人だもんね」

追撃してくるαちぃ。


「この部屋には絶対、中崎は来ないから安心してよ」

……親友さんの言葉に抵抗を諦めることにする。


「じゃあ〜雪ちゃん」

αの一人、服を選んだ女子が声をかける。


「はひっ!」

副委員長はビクッとして声が裏返る返事をした。


「もー雪葉! ここで言いたいこと言わないと、また逃げられるし後悔するよ?」

いいの? と親友さん。


俺はドキドキです。なんでか? 何を言われるのか想像がつかないから。


 中崎君に近付かないでよこの隠キャ! とか言われたらどうしよう……近付いてるの俺じゃなくて、あっちなのに理不尽極まりない。


《どうしてそうなるのよ……》

俺の味方は女神さまだけなのに、そんな呆れた声出さないでください……。


 小さい声でよくない。そう言った副委員長は、姿勢を正して、あのね……と話し出した。


「私、少し前に中崎君に告白されて、それをその場で断ったの……」


へぇ、お幸せ──え? 断った?


「……」

え、つまり……どういうことだってばよ?


「それでね、その……断り文句にす、好きな人がいるって言っちゃって」


「……」

なるほど分からん。


 中崎が俺に絡むのは、副委員長に告白して振られたからってこと? ただの憂さ晴らしで、副委員長関係ないの? 中崎マジなんなの


「そ、その時に好きな人の名前を聞かれて……」

真っ赤な副委員長。


「……」

体調不良ですか? 日を改めません? 中崎の股間を転移で蛇口にでもしておくから。あんな脳内ピンク去勢ですよ去勢。


《いいから、黙って聞く!》

俺、一言も話してませんよ女神さま……。


「そそそ、その、だから私、ぉ……くん……みたいな人って言っちゃって……だから、中崎君に絡まれてるんだと思うの……ごめんなさい」

下を向いて耳まで真っ赤な副委員長。


「……」

ふむ。途中声は小さかったが、俺は難聴じゃないのでギリ聞こえた。


 要するに、中崎は副委員長が好きで告白したが、振られてその時の断り文句に《應地が好きだと言われた。


 副委員長が好きな人は俺に似ているらしく、中崎の中では敵認定。勝手にムカつき絡んできている……ということか。


 それを俺は勘違いして、二人の痴話喧嘩に巻き込まれたと思い、副委員長を避けて、みんなに優しい副委員長を困らせた……。中崎の件は俺だけでなく副委員長まで困ることになっていたのか。


 俺も勘違いしていたことに謝るが、ぶっちゃけ中崎が全部悪い。本当にどうしてくれようか……紛れもないただの八つ当たりだ。好きな人がタイプという人間になれるように努力しようと思わず、無関係な人間にまで害をなすとは……。


《……》

女神さまからとてつもない呆れの気配。


 分かります。中崎には呆れるばかりです。ですが中崎をどうこうする前に、俺もケジメをつけなければなりませんね。


《『ごめん』はダメよ。》

謝ろうとすると、何故か女神さまからストップがかかる。


《何故です? ……悪いことしたらごめんなさい。では?》


《悪いことしたら、ごめんなさい。だけど、今は使うべきではないわ》


日本語って難しい……。ではどう言おう。


《理由を前に持ってきてごめんなさい。ならいいわ。ただ一言ごめんなさいだけはダメってことよ》


 なるほど。何に対しての謝罪なのか、ハッキリさせなくては反省が見えず、謝罪とは言えないってことですね……では──


「──副委員長。俺は、二人の痴話喧嘩に巻き込まれているのだと、勝手に考えて判断して避けていた。巻き込まれた被害者なのは、副委員長も同じだったのに……ごめん。」

頭を下げる俺。


「えっ? あ、いや……勘違いだって分かってくれたなら私はそれで……。でもその、もう避けないでほしい……中崎君がいないところでいいから、普通に話せるようにはなりたい……です。」

眉をハの字にして言う副委員長。


副委員長も被害者だって分かったし、被害者の会って感じか。


《非を認めて謝れるのは美点だけど、超鈍感なのは玉に瑕よね……》


 俺は自分が悪いと思ったら謝れる男です。女には頭を下げないなんて、古風極まりない男ではありませんよ?


「……時と場合は考えるけど、分かった。」

避けないって約束する。と俺。


「これで解決〜?」

俺の服を選んだ女子が言う。


「解決なんじゃない? 避けないって言ってるし。全部、中崎が悪いってことで二人の間のことはひとまず解決でしょ。」

ホント顔だけ、な男だよまったく。とαちぃ。だけ、が凄く強調されていたが同意。


「……それはそうと、私少し気になったことがあるんだけど……」

こちらを見て親友さんが言う。


背筋がぞわり。嫌な予感。


「應地君……『副委員長』って呼んでるけど、こっち来てもうそういうの関係ないし、この際だからこれからは名前で呼んであげてくれない?」

難しい注文を出してくる親友さん。


「……」

待って、今なんでどうしてそうなる?


 そんな不意打ちダメだって! さっき解決したでしょ? αちぃの時解決したはず! 乗り越えたのにまたどうしてそこに戻る? 本当に服屋に慈悲を置いてきたな、取り戻してこい! というか名前にこだわりすぎでは?


 呼ぶこともない名前をどうしてそんなに……いや、これから呼べって言ってるのか……避けないとはいえ、んー……そんなに関わるかな? 俺これから忙しくなるし、寧ろ俺ってこと自体を隠すようにもなるから、そんなに関わらない気がするんだよね……。


「……駄目、かな?」

副委員長本人にも言われる。


「ねえ、さっきうちの名前覚えてなかったけど……もしかして──」

核心をつこうとするαちぃ。


「いや、大丈夫。分かってるって」

食い気味で割り込む俺。


「……さっきそう言って分かってなかったくせに?」

そう言われてしまうと……


「……」

ぐうの音も出ない。


「取り敢えず、私たちの名前言ってみてくれない?」

酷なこと言う親友さん。


「……」

黙るしかない俺。



ぬぬぬ……今回はどうやって切り抜けようか。




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