第2話

 だが、それでも何かしらの縁はあったようだった。


 アーロン・コートベリという男は教員同士の集まりで彼女と出会ったのだという。

 そこでやや強引に彼女は口説かれ、結婚までこぎ着けたのだと。

 「大丈夫?」と当時私はアーロンの妙な強気と酒好き、そして義父母や義理のきょうだいの数を見て、思わず聞いてしまった。


「家族は沢山居た方がいいでしょ」


 彼女に言われると、さすがに私は何とも言えなくなってしまった。



 それでも私が見る限り、アーロンとの結婚生活はそう悪くない様に思えた。

 教師をやめ、家庭に入った彼女は、それまでなかなかしっかりできなかった家事を楽しむ様になった。

 夫と義父母、義姉、義弟二人に彼女という七人が住むには少し小さいのではないのかな、と思う家に、彼女は満足していた――はずだった。

 ただ、なかなか子供ができないのと、五つ歳上の義姉がなかなか結婚しないこと、義弟二人も独立しようとしないことは私としては非常に気になった。

 と言うか、三点も気になることがあった、と言った方がいい。

 子供ができない点については、さほど夫から言われることはなかったらしい。義父母にしても、この狭い家に…… という気持ちがあったのだろう。

 何だかんだで、悪くは無かったはずなのだ。



「ねえ、一体何があったの?」


 翌日、彼女がぐっすり眠り、メイドに用意させた温かい風呂に入れてゆったりお茶の時間が取れた時、私は尋ねた。


「実はお母様のご両親が亡くなったことで、私に遺産が入ることになってしまったの」

「え! だって、向こうに確か叔父さんだか叔母さんだか居るって……」

「ところが、叔父様はインドの方に赴任した後、現地の女性と結婚してしまって…… 勘当されてしまったの。叔母様はその時のご両親の様子を見て、嫁いだ後縁を切るって言って、これまた夫の方と共に東洋へ。で、怒ったお祖父様の遺言書には、相続人はお母様にする、とあったの」

「え、でも貴女のお母様は」

「ええ。ところがその時点ではお祖父様は知らなかったんですって。で、遺言書には、まず自分が死んだら妻に、つまりお祖母様ね、その次にお母様に、ってことだったの。そしてお祖父様が少し前の流行風邪で亡くなって、気落ちしたお祖母様まで同じ風邪にかかって悪化して亡くなってしまったんですって」

「何ですかそれは」


 何処までも家族運が無い子だ、と私は思った。


「で、そのお家の弁護士が私を捜し当てて、うちで話をしたのね。そうしたら夫が仕事を辞めてきてしまったのよ!」

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