娘を驚かせた超早業レシピ
紗織《さおり》
娘を驚かせた超早業レシピ
「ただいま~。
ねぇねぇ、お母さん、お腹空いた。
何か作って~。」
帰宅して、玄関の扉を開けて入って来るやいなや、この言葉を言うなり、玄関にうつ伏せにバッタリと倒れ込んだ娘。
「お帰りなさい。
あらあら
でも学校から帰って来たら、まず手洗い・うがいでしょ。どうして、お腹空いた~ってそんな玄関で倒れ込んじゃうの?」
リビングで洗濯物を畳んでいたいた母が、娘の方に近づきながら声を掛けた。
「え~、お母さん、私は部活で必死にボールと戦ってきたんだよ。今日は練習前に走り込みもあったし、いつもよりもハードだったんだ。だから本当にもうお腹がペコペコなんだよ。」
バスケットボール部に所属する娘が、自分の置かれた境遇を報告し、母に何とかして欲しいと訴えていた。
「でも、この洗濯物を畳み終えたら、お母さんもすぐに夕食の準備を始める予定なんだ。後一時間もあれば夕食が出来るから、それまで待てないかしら?」
母は、とりあえず自分が家事で忙しい事を報告し、夕食まで待てないか娘との交渉を開始した。
「一時間!?そんなに待てる訳無いじゃない!?」
即答で却下する娘。その強い口調に思わず『そんな言い方をしなくても…』と思う母。
「花音ちゃん、言葉使いがまた強くなっているみたいよ。
もう少し柔らかい言い方にして欲しいな…。」
母は娘にもそういう言い方をして欲しいと願いながら、努めて優しく言った。
「お母さん、お腹空いた~~!?」
娘は自分の希望を言う事に必死で母の声は耳に届いていないかのようだった…。
「まず起きて、洗面所で手洗い・うがいを済ませて着替えておいで。
そうしたらその間に何か準備をしておくから。」
お腹の空いている娘にこれ以上何か言うのを諦めた母は、素直に娘の主張を受け入れる事にした。
「やったぁ~。お母さん、大好き。」
ピョンと飛び起きると、娘は洗面所に向かって歩いて行った。
「あらあら、願いが叶った途端に元気になるのね。しょうがないなぁ。」
そう言いながらも、洗面所に入って行く娘のその後ろ姿を笑顔で見つめる母。
「さてっと、何を作ろうかしら?
やっぱりせっかくだから、あの子が喜ぶ物を作ってあげなくちゃよね。
とは言っても、洗濯物を畳むのがまだ途中だし、夕食の準備もしたいから…。
そうだ、オーブンさんにひと頑張りしてもらいましょう。」
母は、料理を決めた。
冷凍庫からフライドポテトを取り出し、一食分のポテトをアルミホイルで作った容器の中にザラザラッと入れた。
これに、ハーブ塩を一振りと胡椒一振りをして、仕上げにとろけるチーズを多めに掛けて、その上にマヨネーズも少しトッピング。
最後にホイールの口を閉じたら、下準備は完成。
後はそれをオーブンに入れて、250度で10分加熱を設定してスタート。
手早く娘の好きなフライドポテトを使ったメニューを準備した母は、洗濯物の元に戻って、畳み始めた。
「あれっ?
お母さん、まだ何にも作っていないの?さっき約束したじゃない。」
制服から部屋着に着替えてきた娘が、母の洗濯物を片付けている姿を見つけて、そう声を掛けて来た。
「どうでしょうね?」
楽しそうに答える母。
「えっ、もしかしてもう準備終わっているの?
すっごく早いね。ビックリしたよ。
どうもありがとう、ところで何を作ってくれているの?」
娘はオーブンの稼働音に気が付き、嬉しそうに近づいて行って、窓から中を覗き込んでいた。
「ホイール包み焼きかぁ。
中には何が入っているのかしら?」
覗いても中身が分からない包み焼きを発見した娘が、母から情報を得ようと聞いてきた。
「さぁ、何でしょう。
もうちょっとで出来るからそれまでのお楽しみだね。」
ニコニコしながら母は答えた。
「ありゃ、内緒かぁ。
でも、なんだかチーズの匂いがしてきているよ。
何々?ピザ?」
「何言っているの。
ピザならホイール包みはしないでしょ。
佳菜の大好きな物にチーズを掛けて焼いてみたの。」
母が答えた。
「嘘!?
じゃあポテトのチーズ掛けって事。すっご~い、ダブルで大好きだぁ!」
何と母の第一ヒントであっさりと正解を導きだした娘。さすがです。
「チーーーン!」
焼けました。
母はホイール包み焼きをオーブンから取り出して平皿の上に乗せると、それを娘が待つダイニングテーブルへと運んだ。
「お待たせ。
熱いから気を付けてね。
お好みでケチャップを付けても美味しいかもしれないよ。」
そう言いながら、座っている娘の前にポテトを置いた。
「じゃあ、いっただっきまーす!
アチッ。ホイールを開けたら、湯気がすごいよ。
うわぁ、美味しそう。
ありがとう、お母さん。」
娘は、トロットロにとろけたチーズがかかったポテトにフォークを刺した。
そして、ふぅふぅ冷ましながら口の中にパクっと入れた。
「アチッ、美味し…」
嬉しそうに食べる娘。
「このままでも美味しいよ。
でもせっかくお母さんがケチャップを出してくれたから、これも使って食べてみようっと。」
何口か食べた後に、今度は味変をしようと娘がケチャップを掛けて食べた。
「ふむ、チーズも減ってきていた部分だったから、ケチャップがいいアクセントになったみたい。
これも美味しい。」
いつものように、美味しいという食レポをしながら、喜んで食べてくれる娘を見つめる母。
「本当に作りがいがある娘だよね。
可愛いねぇ。」
娘を驚かせた超早業レシピ 紗織《さおり》 @SaoriH
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