宥恕への後悔
ヘイ
心情安らかには生きられない
ずっと、好きだった。
と、そういう風に思ってた。
思ってはいたが、別に未来を見ていたわけではないし、幸せがあるとかも思った訳じゃない。
だから、なんとも言えない。
不躾に視線を向けるだけ。
逸らすだけ。
鼓動が早まるのを感じて、思いを口にすることもなく茶化して終わりの恋愛観。
自信がなかった。
と言ってしまえば確かにそうで、自信がないから告白などもできない。
逃げる方法があるから逃げる。
別に、人に嫌われるのは良かったけど、人に好意を伝えると言うことが何よりも恐ろしく感じていた。
「3組の
なんて聞いて、「まあ、可愛いから」と納得だけした。
勝ち目はないと思った。
真司という男子のことを当然、俺も知っていて俺なんかとは随分と違って恵まれた環境で生きてきたのだろう。
挫折なんて中々味わなかったのだろう。
気持ちを伝える前に、とか。
そう言うのを言うのは、俺としてはどうにも理解できない話だった。
俺は人から嫌われて、暴力を振るわれ続けてきた昔があって、誰からも好きになってもらえないと思って生きてきたから。
どうせ。
どうせ、幸せになるんだろうとか。
どうせ、俺は好きになったとしても怖くて口に出せないから。
もしかしたら、もっとマシだった今があるのかもしれないなんて言い訳をしても、結局どんな風になっても独りぼっちを感じ続けるのかもしれない。
「────────」
友達と話す彼女の姿を眺めていた視線を外して、いつも通りに一人で教室から出た。ホームルームまで時間がある。
クラスに友達がいない。
だからと言って他のクラスにも行くのは気まずいからと、冬の凍えるような寒さの廊下をほっつき歩く。
窓の外は雪が吹いている。
帰りもきっと降り続けてるだろう。
「……無関心でいてもらった方がマシだろ」
また言い訳だ。
好きになってもらう努力なんて無意味で無価値で非生産的だ。
数値なんかじゃ表れないそんな物に、必死になったところで具体的にもならない。どうせ、俺はもう幸せにはならない。
本当の幸せがなんなのかも分からないまま、歪んだ性根で言い訳を並べながら生きていく。妥協に妥協を重ねて、許したくもないようなことを許して。
そして、また気が付いてしまう。
終わっていたのだと。
心が折れてたのを必死に隠してた。茶化してまで隠し続けても、ふとした瞬間に表れる弱さに蓋なんかできない。
「
「あ、おはようございます!」
「ホームルーム始まるから。……そうだ、今日バレンタインでしょ?」
担任の先生が職員室に戻って行って大きめの缶を持ってきた。
「クラスに配るから。あと、ちょっと学級日誌持ってくれない。日直の
「はい」
先生に言われて俺は職員室に入って学級日誌を取ってくる。
「…………」
俺と先生の間に会話はない。
教室の扉が開いて、いそいそとみんなが座り始める。俺も自分の席に戻る。
「…………」
いつもと変わらない。
ただ、ちょっと先生がお菓子を配って、どっかの誰かが浮き足立つだけ。
そしてきっと、俺に暴力を振るってた奴らの中には彼女と幸せな一日を過ごしている奴もいるんだろう。俺と同じようになんともない一日を無為に過ごすのだろう。
そう思うと許したことが心底悔やまれてしまう。
こんな日にデートをする奴もいる。
愛を確かめる奴もいる。
告白される奴もいる。
「無理だわ」
変わろうとしても変われない。
ブレーキを踏み続ける。
あいつらは上手くやってるってのに、俺は自信なんてカケラもなくなって人生は閉じてしまって。
彼女がいたのならこんな自分でも良いと思えたのか。友達がいたなら、少しは認められたのか。
どうせ。
もうどうにもならないことだ。
(人生、壊れちまえよ……)
恨言の一つくらい許してほしい。
俺に権利がなくとも、そんなことの一つは思ってしまうから。
あわよくば大人になってから破滅してくれ。俺も大人になるにつれて段々と失った物に気がついていくから。
自信も、主張も、道徳も。
少しずつ欠けているから。
だから、だからお前らも壊れてくれ。
ああ。
本当に、みっともないな。
俺は。
苦笑いが出そうだ。
宥恕への後悔 ヘイ @Hei767
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