第6話 転校生との関係

 瑠汰に萌夏と俺が双子の兄妹であるとバレた。

 これは由々しき事態である。


 今まで約一年半の高校生活で積み上げたものが一気に破壊された感覚だ。


 まず瑠汰が言いふらすとは思えない。

 俺はやめてくれと言ったし、本気の制止を無視するような奴ではない。

 あいつは義理堅く、約束も絶対に破らない人間だ。

 そういう所も好きだからな。

 ……って違う。


 冷静になるんだ三咲鋭登。

 まずは情報共有だ。

 さっき瑠汰に言った通り、これは俺一人でどうにかできる問題ではない。

 双子の問題なのだから。


「はぁ……めんどくさ」


 萌夏はなんて言うだろう。

 絶対怒るよなぁ。

 そもそも俺と瑠汰の関係も話さなくちゃいけないよなぁ。

 早くも気が重い。




 ‐‐‐




「……」

「……」


 俺の自室にて。

 何故かベッドを占領され、俺はカーペットの上に正座という構図で相対していた。

 どうしてでしょう。


 萌夏は風呂上りで濡れた髪をいじりながら、俺を冷ややかな目で見ている。

 スクールカーストには座席順まであるだろうか。


「噂になってるの。転校生と陰キャが付き合ってるって」

「……誤解だ」

「わかってる。付き合ってるわけないよね」

「……」


 相変わらずトゲトゲした言葉だな。


「朱坂瑠汰ちゃんとあんた、どういう関係なの?」

「まずはそう来るよな……」


 俺は頭を掻きながら、仕方なく口を開く。


「元カノだ」

「……は?」

「瑠汰とは昔付き合ってた」

「ちょっと、え? どういうこと? はぁ?」


 疑問符が大量に飛んできた。

 当然の反応だ。

 ずっと家でも学校でも俺を見ていた妹の知らない元カノなんて、不自然極まりないもんな。


「え? あんな可愛い子中学いなかったよ。小学校も……いやいないよ」

「だから、そういうのじゃないんだよ」

「まさか、ネット?」

「そうだよ」


 頷きつつ、当然次に来るだろう罵倒か何かに目をつむる。

 萌夏は学校生活が人生みたいな奴だし、ネットの世界でどうのこうのやってた俺なんて軽蔑対象だろう。


 しかし、いつになっても俺が待っていた言葉は聞こえなかった。

 薄眼を開くと、萌夏は俺を凝視していた。


「何やってんの」

「え、いや……」

「ふぅん。あんたにも元カノとかいたんだね」

「あ、あぁ」


 なんか思ったのと違う。


「なんかウザいな。いつの話なの?」

「中二の時」

「ふぅん。きも」


 どういう反応なんだそれは。

 結局文句は言われるんだな。


「私でも彼氏なんてできたことないのに」

「え? 嘘だろ?」

「ほんと」


 これは意外な話だ。

 昔から可愛い可愛いと男女問わずにチヤホヤされてきた萌夏に、まさか彼氏がいなかったとは。

 確かに浮いた話は聞いた事がなかった。


「意外とモテないんだな」

「勘違いしないで。付き合うと面倒になるから全部断ってるだけ」

「面倒?」

「私が彼氏作ると絶対騒ぎになるじゃん。抜け駆け禁止みたいなお約束もあるっぽいし」

「マジか」

「ふん。モテる私はあんたと違って恋愛すらまともに出来ないってこと」


 同じ学校にいながら、そんなことになっているとは知らなかった。

 やはり友達がいないと情報を得るルートも貧困だな。


「あーぁ、結構マズいよね。今やあんたちょっとした有名人だよ」

「どうせロクでもないんだろ?」

「陰キャが調子乗ってるって言われてる」

「……」

「名前すら広まってないのはむしろあんたの偉業かも」

「ははは、もっと褒めてくれてもいいんだぜ?」


 涙を拭いながらにやりと笑う俺。

 やっべ、鼻水出てきた。


「マジでそういうのキモい。どうすんの、これで私とあんたの関係がバレたら」

「流石にそれはないんじゃないか?」

「わかんないでしょ。もしそうなったら人生終わるんだけど」

「お前は高校生活が全てなのかよ」

「今まで積み重ねた努力が他人に壊されるって最悪」

「……」

「まぁあんたのせいでもないけど」


 不慮の事故だ。

 対処のしようがまるでなかった。

 まさか元カノが転校生としてやってくるとは誰も思わないだろ。


 と、萌夏は俺を睨みつける。


「なんか嫌な感じ」

「何がでしょうか?」

「今まで元カノの存在を黙ってたこと」

「……」


 以前からその手の話題は適当に誤魔化していたしな。

 事実騙していたのも同然だ。


「悪かった」

「ま、どうでもいいんだけど」

「なんだよ」


 相変わらず妹の機嫌はよくわからない。

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