第2話 王道シチュでドキドキ
夏休み明け初日。
猛暑による怠さで頭が回らない始業日の朝にとんでもないことが起きた。
「ひさしぶりだな~」
「……」
おい神様。
何の悪戯なんだこれは。
隣には初めての登校だというのに、あくびをして緊張感を微塵も感じさせない黒髪美少女。
なんてこった。
「すんごい確率だな」
「ほんとによ。三年ぶりに元カレと転校先で再会? しかも隣の席って……どこのラブコメだよ、そんな王道シチュ望んでねーんだわ」
そう、まさか席まで隣になってしまった。
というのも元々俺が座っていたのは教室隅の席。
奇数人数のクラスなため、隣の席は無人だった。
そこに瑠汰がやってきたのだが……うぉぉ、改めて鳥肌が立つレベルのフィクション感だ。
「まぁよろしくな。鋭登」
「あぁ」
俺――
と、瑠汰は懐かしさを覚える笑い声を上げた。
「なんか変わんないな君は」
「そうか?」
「余所余所しいっていうか暗いっていうか……あ、コミュ障って言うのか?」
「喉潰すぞ」
「おっと、ツッコミのキレは健在」
おどけた彼女は満面の笑みを浮かべる。
あどけなさはあれど、昔と違って大人びた彼女の顔はとても魅力的だった。
見つめていると唐突に顔が熱くなる。
悟られないように顔を背け、俺は言った。
「あんま俺に構うなよ、ほら」
「うわぁすっごい視線」
既にクラスの注目を俺達は一身に浴びていた。
当然だ。
美少女の転校生なんて超レアな存在で、俺達は高校生。
こういうイベントには心躍るお年頃なのだ。
それに。
「俺は結構浮いてるからな。そんなのと話してたら今後面倒なことになるぞ」
現に今も俺達の会話を盗み聞いた女子達がこそこそ『元カノ?』『なにそれ、あの三咲君の?』『聞き間違えじゃね?』と話しているのが聞こえる。
うるせえ余計なお世話だばーろー。
「君は卑屈な上に面倒な性格だから、ぼっちなのも仕方ない」
「えっ、そんな事言うのか?」
「あ、嘘だよ嘘! アタシは君の良いところいっぱい知ってるから! ……って何言わすんじゃボケ」
「お前が勝手に言ったんだろうが」
どうしてこう、こいつはこう……
あぁぁぁぁ。可愛い。禿げそうだ。
‐‐‐
昼休みにもなると大量のギャラリーが沸いていた。
「アタシは動物園のチンパンジーかよ。まぁ慣れてるんだけど」
「そこはパンダとかコアラだろ」
こんなに可愛いチンパンジーがいてたまるか。
幸い教室隅という事と、隣に俺という奇妙な存在がいることで話しかけに来る勇気がある者はいない。
みんな昼食を食べながら遠巻きに眺めているような感じだ。
「いいのか? 俺なんかに構ってないで他の女子と仲良くなってこいよ」
「君はアタシに喧嘩売ってんのか? あぁ?」
「……」
「ネトゲ沼にハマってたアタシに友達をつくるコミュ力があるとお思いで?」
「威張って言うな」
瑠汰はゲーム廃人だった。
当時知り合った際も彼女は、レベルカンストに加えて装備も理論値品というやり込み度。
俺のようなライトゲーマーとは一線を画した存在である。
友達が少ないという性格の類似性からも俺達は惹かれ合っていた。
「まぁでも、ここは居辛いし場所変えて話さない? 積もる話もあるでしょ。アタシ達別れて三年経つんだから」
「そう、だな」
別れてから三年。
仲良く話しているが俺達は終わった関係なのだ。
彼女の言葉で少し頭が冷える。
共に席を立ち、教室を出た。
気付けば廊下にも瑠汰の姿を拝もうとする輩が大量発生中。
なんともまぁって感じだな。
「え」
「あ」
廊下に並ぶギャラリーのうちの一人と目が合い、互いに声を漏らした。
そして思い至る。
この学校には、面倒な関係性の女子が一人いたという事を。
「ん? 鋭登どうかしたの?」
「なんでもない」
俺はそう言って一人の女子から視線を外した。
学校一の美少女と名高い、己の双子の妹から。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます