ギャグじゃない！？

ギャグじゃない！？

　「はぁ～、なかなか犯人（ほし）に動きがありませんね。」

　連日の張り込みで、少し疲れが出てきた青野の口から、思わずもれた言葉であった。

　「なんだ、なんだ、青野。随分根気が足りないようだな。」

　一緒に張り込みをしているベテランの黒川がすかさず注意をしてきた。

　「はい、すみませんでした。」

　気合を入れようとする青野であったが、言葉が空回りしそうであった。

　容疑者の自宅前の道路で帰宅を待つこと数日。そろそろ一度位立ち寄ってもいい頃なんだが…。

「それにしても、こう車内でジッとばかりしていると腰が痛くなってきませんか？

黒川さんなんて、このままじゃあ、きっとギックリになっちゃいますよ。」

退屈を紛らわすように、青野が黒川を茶化すような事を言った。

「ギックリだと⁉

お前は俺の事を一体いくつだと思ってるんだ、まだ三十八なんだぞ。」

黒川も楽しそうに答えてきた。

「三十八？サバを読むにも程がありますよ。

黒川さん今年で五十歳じゃないですか。」

青野が少し呆れた様子で突っ込みを入れた。

「お～～、上手いな、青野。」

ますます黒川が楽しそうに答えてきた。

「えっ！？何がですか？」

「三十八（さば）だろ、さば。」

「えっ？」

「だから～～、三十八歳は、さ・ば・。」

「あ～～～っ、もう！？そんなの偶然。たまたまですよ。

大体そんなオヤジギャグを僕が言う訳ないでしょ。黒川さんじゃないんですから。」

でも青野は、黒川とこのやりとりをした後、なんだか気持ちがスッと軽くなった。

こうしてまた頑張ろうという気持ちを新たにした青野は、さすが黒川さんと心密かに尊敬したのであった。