12 サングス商会夫人イヴリンが語る③
けど奥様奥様兄上兄上って色々面倒ね、ちょっと区別つけましょうか。
最初から言ってる奥様は奥様、兄上の奥様は義姉様ってことにしましょうか。
あとの方はまあ単純に画家さんフルートさんボクシングさんで。
とりあえず皆別荘にいらしたのよ。
そこで奥様、青年を紹介したわけ。
するとどうもそこに居た人々の様子がおかしいのね。
まさかこの青年を知っているのか、と尋ねると、そんなことはない、と皆口を揃えるの。
そして遅れて義姉様もやってくるのね。
ところがこの方、青年を見るといきなり涙ぐむのよ。
どうしたのか、と奥様が聞くと、昔の知り合いに良く似ていて、という答えなのね。
まあそんな風にして、義姉様のきょうだいが居る中で、色んな話題とか、音楽とか、忘れていた楽しみとか思い出して、奥様も少し楽しくなってくる訳。
ところがある日、青年が奥様の目の届く範囲からいなくなってしまうのね。
慌てて探すと、ボクシング氏が彼を連れ出して、湖の近くで痛めつけようとしていたの。
華奢な青年はボクシング氏に木に押しつけられて何やらわめいていた様なんですね。
見つけた使用人は慌てて駆けつけました。
そこで驚いたのは、青年に殴りつけた後、何かしら怒っている様に見えたボクシング氏が急に苦しみだして、その場に倒れ込んだのですよ。
使用人は慌てて人手を呼びました。
殴られた青年もボクシング氏の強い拳に、ということで気を失っていました。
そしてボクシング氏はと言えば、目を見開き口を開いたまま動かなくなったのです。
驚いた使用人はもう叫んだりわめいたり。
だってそうそうこんな、誰かが急に死んでしまう現場なんて見ることはないですからね。
すぐさま近くの郵便局から電信で警察も呼ばれるんですが、少々離れた別荘だったため、到着は翌日ということになったんですね。
できるだけ現場に手はつけない様に、という指示が折り返し来ましたが、到着は翌日以降となりました。
ボクシング氏は別荘の中でもあまり人の来ない部屋にとりあえず安置されました。
奥様は、と言えば殴られて脳震盪を起こした青年の看病で手一杯。
向こうのきょうだいどころでは無いのですよ。
持病があったのかとか、色々話合われたのですが、そういうことでもなさげで。
何より死んだ時の表情があまりにも奇妙だったので、毒が使われたのではないか、と皆で言い合いました。
だけど、それがいつ何処で誰が、というと判らないんですよ。
ただ皆、何故あの青年に対し怒りをぶつけていたのか、という件に関しては特に話し合いはしませんでした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます