1 考古学系歴史学専攻大学教授夫人エレノアが語る①

「ではまず私から」

 そう切り出したのは、大学教授夫人のエレノアだった。



 これはまだ夫が助手をやっていた頃の話なんだけど。

 私ともまだ出会う前ね。

 うちの夫、専門は歴史で、しかもどっちかというと考古学。

 まああっちこっちに出かけては、「これはこれこれ年代の陶器の欠片だ!」とか集めてきては部屋の中がごった返すことが多いのね。

 ともかくそのバイタリティと、論文を書き上げる速度と内容は彼を担当してくれた恩人の教授達も認めているのだけど、まあともかく整理整頓ができないひとで。

 これ難しいのよね。

 下手に触ると何が何処にあるのか判らなくなるから、って結婚してからも私には絶対触らせてもらえないの。

 だからもう、彼の書斎だけはもうどれだけ汚くともいいや、と割り切ることにしたの。

 ただね、若い時には、それを整理してくれる助手の助手、というかまだ卒業していない学生、かしら。

 が、内容もよく知っているから、何かと整理してくれていたんですって。


「いやあ彼は実にその辺りは便利だったんだよ。僕は特に頼みもしなかったんだけど」


 そう、別に彼が頼んだ訳でもないけど、実に甲斐甲斐しく世話をしてくれたんですって。

 お茶を出す時も、周囲にこぼしても被害が広がらない様に場所を空けてからって。

 そのお茶の好みも良く知っていてね、時には外にサンドイッチやフィッッシュアンドチップスを買いにに出たりして。


「それもまたいいタイミングだったんだよ」


 というのが夫の言。

 じゃあその学生自身の研究は、というと、


「飛び抜けて目新しくもないけど実直で一つのことに集中するとそこを追求する」


 タイプだったそうよ。

 その彼――無論彼よ。

 だって、さすがにまだその頃は聴講生だって女には認められなかったもの。

 で、夫は助手のうちに沢山の論文を上げて、助教授になった辺りで私との縁談が来たのね、

 私は当時、ほんっとうに縁談が来なかったのよ。

 と言うのも、私の姉と妹というのが、ともかく周囲から人気があってね…… 

 この二人には、もうあふれんばかりに縁談が舞い込んできたのよ。

 だけど私にはさっぱり来ない。

 ほら私の実家って、一応子爵家だけど、決してもの凄く裕福って訳じゃないでしょ。

 だから、姉や妹にしたって、まあ半分は、子爵家とのつながりを持ちたいって魂胆よね。

 だけど私にはそれすら! 来なかったのよ。

 ……まあ、本ばかり読んでる地味な娘だったし、こういうお喋りの時にはしないけど、眼鏡していたし、髪も適当にお下げだったし、乳母も侍女も私に何とかしてちゃんとした格好させたいと思っていたくらいだからお察し。

 まあそこに来たのが彼との縁談だった訳よ。

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