暇を持て余す19世紀英国のご婦人方が夫の留守に集まったけどとうとう話題も尽きたので「怖い話」をそれぞれ持ち寄って語り出した結果。

江戸川ばた散歩

とある夜のこと。

「飽きましたわ」


 まずそうぽつんと言ったのは誰だったろう。


「え、何とおっしゃいました?」


 聞きとがめた一人もまた、心なしかその言葉にうきうきと。

 そう、皆最近の会話の内容にそろそろ飽き飽きしていたのだった。

 ここに集まるのは、皆夫がある程度の地位とお金、もしくは価値ある仕事、そういうものを持っているご婦人達十二人である。

 特に資格がある訳ではないが、話し好き、という一点ではがっちりと手を組みたくなる様な。

 ただその話にしても、そろそろ同じ様なものなものばかりで食傷気味だったのだ。

 と言うのも、常ならば週に一回、二週に一回、という程度のものなのに、ここのところ夫達が議会やら、それに関わる仕事の出張で毎日てんやわんや。

 社交が仕事の一部である彼女達は、まあそうなればまた集まって夫達の様子などの情報交換から、雇い人の愚痴まで思い思いに話すのだけど。

 この詰め具合で、さすがに話の種が尽きてきたのは確かだった。

 遠くから何やら汽笛の様な、よく響く音が聞こえてくる。


「米国の作家の本で、花にちなんだ話を皆一つずつ持ち寄ってみる、というのがありましたけど」

「リットルウィメンの作者のでしたっけ。でも花ではやっぱり知っているものも尽きませんこと?」


 食べ物の話、ドレスの話、そういうものは、既に出尽くした感がある。少なくとも今現在の話題性のあるものと言うならば。


「……じゃあ…… 怖い話とか…… どうでしょう?」


 普段物静かな一人がそっと口を挟む。


「怖い話」

「私、巷にある推理小説とかも暇な時には面白く読んでいるのですけど、残念ながら、私達の周りにはホームズ氏もデュパン氏も居ない訳ですから、謎が謎で残って怖い話って結構あるのでは?」

「……判ったからこそ怖い話、というのもありますものね……」


 ちなみに彼女達は某東の国では「百物語」という形式があることも、そのうちその国を愛してしまった英国人が「怪談」という作品をまとめることも、まだこの時点では知らない。

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