閑話 月下の黒き影
(????/三人称視点)
天空で輝く三日月が優しい銀の光で大地を照らしている。
見守るような静かな光を
(お月様はありませんでしたものね)
あの光を浴びていると不思議な力が溢れてくる。
そのような錯覚を覚え、少女は軽く、小首を傾げた。
(気のせいかしら?)
三日月を背に夜空に溶け込む闇の色を宿した
その心臓部とも呼ぶべき
真紅の液体が充満した
少女は小さく、溜息を吐くと聖母のように慈愛に満ちたうっとりとした表情で眼下の戦いを見守っている。
(この高さなら、さすがに気取られる可能性はないでしょう。まだ、記憶が完全ではない彼には分からないはずですわ)
しかし、その表情が一変する。
(さて……後片付けしないといけませんわ。 あのままにしておいたら、浮かばれないのだったかしら?
バインダーの内部に収納されていた
先端が尖っており、十字架を模した細身の剣――
(
少女の内面では抑え切れない激情が地獄の業火のように激しく燃え盛っている。
しかし、それを一切、表には出さない。
表情にまるで人間味を感じさせない。
少女の整った顔立ちも相まって、完璧なビスク・ドールと見紛う美しさだった。
「行きなさい、
黒き影に追従していた八基の薔薇の花びらが地表で物言わぬ骸となったクラーケンに向かって、高速で飛翔していく。
六基の
残りの二基は監視をしているかのようにクラーケンの真上で待機している。
「清浄なる光の名によりて、全ての流れを清らかにせん……
少女の呟くような詠唱に応じ、
描かれた黄金の魔法陣――金の六芒星が巨大な骸を中心に起動した。
骸となった巨大な蛸の化け物は魔法陣から、発生した光で構成された巨大な真白き光の柱の中に呑まれるように消えていった。
一瞬、太陽が出たのかと錯覚を起こすほどの、眩い光が放たれ、後に残されたのは静寂と八人の少年の無残な遺体だった。
(八名の行方不明者から、謎の連続怪死事件。大変なことになるのかしら?)
少女の表情は相変わらず、凍り付いており、眼下の光景にも冷めた視線を送るのみだ。
ただ、一点――白銀の
そのことに当の本人すら、気付いてはいなかった。
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