閑話 対怪異特殊機動隊
(三人称視点)
小暮龍二は辞令から、目を離すと軽く息を吐き、『そうか。俺もとうとう佐官か……』と呟いた。
その言葉に応える者は誰もいない。
「…………」
眼鏡を外し、再び、ふぅと溜息を吐くと『これでお前も逃げられなくなったな』とこの場にいない者の声が聞こえた気がした。
「さて……」
煙草を取り出し、火をつける。
小暮の目に映るのは書類の山だ。
ただの書類ではない。
昇進に伴い、編成される新たな部隊。
そして、新たな作戦指示書である。
作戦指示書とは読んで字の如く作戦の立案・遂行のための命令書である。
作戦指揮官によって作成され、司令部へと提出されるものだ。
「スケープゴートか」
小暮は自身の昇進と新部隊の設立は上層部への批判を躱す材料に過ぎないと考えていた。
このところの陸上自衛隊の作戦行動は成功とは言い難い結果しか、得ていない。
さらに第一級怪異クラーケンに続き、特級怪異・
クラーケン戦において、旧式機を多く失っただけではなく、試作機ミネルヴァの損傷という大きな痛手を受けている。
そして、
現状、稼働可能だった最新鋭機マーズを全て、失ったのである
小暮はこの責任の一端は自身にもあると考えていた。
A湖における作戦行動で現場の一隊を率いていたからだ。
小暮が指揮する部隊は敵と交戦する前に突如として、現れた未確認機の襲撃を受けた。
それが
何も出来なかったのだ。
ところが
しかし、同時に小暮の頭を悩ませる原因ともなっている。
成功はしたものの小暮小隊の戦力の要たるメルクリウスは満足に動ける機体が二機だけという有様である。
機体損失の問題だけではない。
前衛を担った大橋が重傷を負い、暫くの戦線離脱を余儀なくされたのだ。
大橋の負傷は深刻だった。
未だ、意識すら戻っていない状況だが、それでも奇跡的に命だけは取り留めていたのは救いではあったが……。
それにも関わらず、小暮は一等陸尉から、三等陸佐に昇進する。
おまけに小暮小隊を再編成し、強化した新部隊を設立するという話である。
小暮は明らかに作為的な得体の知れないものを感じ、煙草を
「また、厄介事が増えそうだ……」
小暮は溜息混じりに紫煙を吐き出した。
名簿に記された新たに追加される隊員の名――『天宮』と『望月』を見て、不安が予感から、確信となったことに気付く。
「まあ、いい……」
既に短くなった煙草を捨て、新しい一本を取り出すと火をつけ、吸い込む。
「もう逃げないさ」
煙草の先端から灰が落ち、机の上に小さな焦げ跡を残す。
それはまるで、小暮の心象風景のようにも思えた。
作戦指示書には以下の項目も記されていた。
第一特殊任務部隊に所属し、美濃部一等陸佐の指揮下にあることは変わっていない。
しかし、新たに
また、再編制・新設に伴い、支給される
最新鋭のカスタマイズが施されたそれぞれの個性に適合するカスタム機――
望月三等陸尉の異動に伴い、本来はデータ収集後、封印を予定されていた
そして、民間人であるはずの天宮悠が特例として、二等陸尉に相当する特士の地位を与えられることも併せて、記されていたのである。
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