第10話 お前はまだ戦える
空から舞い降りし、白銀の戦士ミネルヴァ。
陸上自衛隊が秘密裏に開発した次世代主力
一切のコストを度外視し、現状持ち得る技術の粋を尽くして、建造された機体であり、その性能はこれまでのシリーズと一線を画すものだ。
腕部マニュピレーターで人と同じように細やかな動きを可能とする人型の機動兵器。
それが
マニュピレーターによる状況に応じた武装の換装は多大な戦果を挙げることに成功した。
しかし、運動性の低さによる被弾率の高さは変わらず、切実な問題となっていた。
解消するべく取られた手段は、今までにもいくつか講じられてはいたのである。
AM-08ゼファーを改修し、出力を向上させたAM-08NSゼファー・ナイトストライカーはその一手だった。
実験的に生産された機数は少数であり、精鋭の特務部隊に配備されたことも影響し、予想を超える戦果を挙げる。
高い運動性を完全に実現は出来なかったナイトストライカーが予想外の結果を残したのである。
そうして、生まれたのがAMX-10ミネルヴァだった。
運用試験データを基に開発されたAM-10マーズの制式量産化も決定した以上、試作機であるミネルヴァはもはや、お役目御免となるのが決まっていたのである。
「お前はまだ戦える……お前は……私は戦えるんだ!」
ミネルヴァが腰椎にあたる部分に左右互い違いに収納している二振りの刀を抜き放つ。
刀と言っても刀身に反りがない直刀であり、その形状はかつて忍者が使っていた忍び刀によく似ている。
その刀身は赤く輝いており、まるで熱気を放つかのように刀の周囲が揺らめいていた。
斉射を行っていた僚機が次々とクラーケンの触腕の餌食となっていく惨状を前にしても自らを抑え、冷静さを保っていたミネルヴァのパイロット・望月三尉は
その加速力はこれまでのゼファーとは一線を画す。
比べ物にならないスピードで動くミネルヴァの姿はまるで白銀の弾丸のようだった。。
触腕で掴んだゼファーを今まさに喰らわんとしていたクラーケンとの間合いをあっという間に詰めたミネルヴァは両手の忍び刀を一閃させた。
レールガンでも傷を負わなかった触腕が力を失い、ゼファーを掴んだまま、落下していった。
難を逃れたゼファーはそのまま、大地に叩きつけられたが、頑強さに定評のある機体である。
触腕によって、破壊された右腕部と左脚部以外は特に損傷していないようだった。
「回収。すぐに退避」
「了解!」
望月三尉がまだ動きの取れる僚機に損傷機と怪我人の回収を命じると一閃させた忍し刀をそのまま、切り返し、もう一本の触腕を切断する。
瞬きする間の出来事だ。
クラーケンが獲物を奪われ、大事な腕を切られたことに気付き、激昂した時には既にミネルヴァは距離を取った位置に移動していた。
一瞬の間に触腕を切断するや否や大地を蹴って、クラーケンの胴に蹴りを入れ、その反動を利用して、宙返りで身を離すというアクロバティックな動きをして、のけていた。
以前の
「チッ。化け物め」
望月三尉は全天モニターに映し出されたクラーケンの姿に乙女らしからぬ、舌打ちをする。
切り落としたはずの触腕が既に再生され、何事もなかったように不気味にうねっていたからだ。
驚異的な再生力である。
それだけではない。
身体も一回り大きくなっており、全身を鋭い棘のような物が覆い尽くしていた。
ぬめぬめとした光沢感のあった体表も変化しており、硬質化しているように見えた。
クラーケンは感情の色を一切表さない無機質な目に憎悪の炎を滾らせながら、触腕を動かし、ミネルヴァに向けて、猛進してくる。
その動きに臆することなく、望月はミネルヴァに前傾姿勢を取らせると両手の忍刀を構え、駆け出そうとする。
しかし、その時には既に遅かった。
足首に漆黒の触腕が絡まり、その動きを妨げたのだ。
「しまった!? くっ」
足首にしっかりと巻き付いた触腕により、何度も激しく地面に叩きつけられたミネルヴァの操縦席で望月三尉の意識は闇の底に沈んでいった。
動かなくなった獲物に興味を失ったのか?
それともまるで損傷を受けたように見えない獲物に興を削がれたのか?
はっきりしたことは分からないがまるでゴミでも投げ捨てるようにミネルヴァを勢いよく、放り投げる。
力無く、糸の切れた人形のようになっていたミネルヴァは何の抵抗も示さず、木々を薙ぎ倒すと大地に仰向けに倒れ伏すのだった。
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