第17話 伊豆に残された「中学生」たち

蒸し暑いテントの中で目が覚めた。


テント前室でまだ寝ているカメを叩き起こしてテントから這いずり出る。

今日も暑くなりそうだ。天気がいい。


視界の端にある1人用のテントには昨夜一緒に飲んだユリが寝ているはずだ。

ユリが寝た後も男3人であーでもないこーでもないと

勝手に美脚美人ユリの噂話に花を咲かせて妄想レベルMAXで寝たので、

顔を合わせたら赤面してしまいそうだ。


逃げるようにして海水浴場の水場に行って顔を洗いヒゲを剃る。


バシャバシャバシャ…


「おはようございます!」


不意に後ろから声をかけられ飛び上がる。


「あっ!ゴメンなさい、驚かせちゃって!」


ユリだった。

想定内だが完全に油断していたのでビックリしてしまった上に、

思った通り昨夜の妄想が蘇って赤面してしまう。


ユリの方を向かずに火照った顔を隠すようにもう一度顔にバシャっと

水をかけてから首タオルを広げてゴシゴシと拭き、

リセットしてから返事をした。


「おはようございます、ビックリしました~。

朝ごはん味噌おじやと魚肉ソーセージの焼いたのでいいですか?」


「え~ご相伴に預かっていいんですかぁ?」


「もちろんですよ、一人分追加するのは全く大したことないので。味は保証しませんけどね」


そんなことないです、昨夜のご飯美味しかったですよ、

というセリフへの返事は笑顔でスルーしつつ、ユリの顔に正対する。

うん、確かに美人だな。また赤面しそうだったので目をそらす。


魚肉ソーセージは常温で保管できるのでこういうバイク旅では重宝する。

いつも数本は持っておくのだ。せっかくなので道向こうのコンビニで卵も買ってきて

目玉焼きも作ろう。


食べてくれるお客さんがいると作る方もモチベーションが上がる。


昨夜の残りご飯に粉末味噌汁を2袋ほどブチまけ、

沸かしておいたお湯をかけて味噌おじやとする。

折りたたみフライパンに油を引いて、

魚肉ソーセージをハサミでちょきんちょきんと切ってフライパンに落としていく。

そして塩コショウをぱっぱと振って終わり。

目玉焼きは2つずつ割って一度に2人分を作成。

蓋がないので堅焼きになりがちだが文句言う奴には食わせない。


ゴソゴソと起き出すヤマカメの尻を蹴飛ばしつつ配膳する。

といっても紙皿に乗せて地べたに置くだけだが。


今日は海で遊ぶ、と昨夜決めておいた。

朝、片付けに追われないというのは心理的に楽だ。


「私は朝ごはんを頂いたら先に出ますね」


あからさまに残念そうな顔をするヤマ。

昨夜の妄想の1つにユリが水着を持っていて一緒に遊んでくれる、

それもビキニ!というものがあったのだが、現実はそう甘くないのだ。


「そうですか、朝まで付き合ってくださってありがとうございました。

会えてよかった、とても楽しかったです。

またどこかで会えたらいいですね。」


そう言って笑顔で送り出した。


ユリも笑顔で手を振り、ヘルメットを被ってゆっくりと石廊崎に向かって走り出していった。


その後我々はヤンチャな中学生時代に戻り、

磯付近で潜ったり浮かんだりしていた。

遊漁券を買い、貝を拾ったりウニをとったりして晩飯を優雅にするために頑張った。

息の続く限り潜るので、海中のものを拾って浮かぶ時は既に息はギリギリである。

水面を見上げると、あ、コレは死ぬなと未来少年コナンにはなれない自分を思い知る。実際にはギリギリ間に合うが。


その日は結構な採れ高でホクホクしながら、早い時間からの夕飯となった。

ちなみにウニの棘が刺さったカメはトゲを抜くのに一人で騒いでいた。

とげ抜きなどないものだから爪切りで抜こうとしていたのだが…


「うわぁ!別のとこ切ったぁ!イテェ!」


ご愁傷様である…。

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