第10話

アカネ「また、起こってしまったわね。」


ナオト「......」


アカネ「東雲くん。」


ナオト「なんですか?」


アカネ「......そう。よかったわ。」


ナオト「え?」


アカネ「いえ。少し心配したけど、無駄だったみたいね。慣れたかしら?」


ナオト「...もう、仕方ないですよね......」


アカネ「ええ。」


ナオト「そうですよね...。」


アカネ「生きて、一緒にここを出るわよ。」


ナオト「はい。」



ナオト「さっきのこと、ですけど...」


アカネ「後回しにした方がよさそうね。私たちがこれからすべきことは、またそのうち話しましょう。」



俺たちは部屋を出た。



アカネ「とりあえず、下に降りてみましょう。」



ロビーへ向かった。



......皇さんが倒れている。


表情を見ることは、できなかった。




【所持手札 : 2,3,6】

【NG行動 : 自分の耳に触れる。】





アカネ「...なるほどね。」


ナオト「どうしたんですか?」


アカネ「分からないの?東雲くん。彼女の手札を見てみなさい。」


ナオト「2,3,6、ですね。」


アカネ「ええ、そうよ。合計しても、11なの。」


ナオト「密告は、しなくても良かったんですね...」


アカネ「私たちは、はなから協力なんてできなかったのよ。」


ナオト「......」


アカネ「これ以上ここにいても、何もないわ。」


ナオト「はい...部屋に戻りましょう。」



ロビーを、後にした。



ナオト「やっぱり、慣れないですね。」


アカネ「ええ、本当に。」


ナオト「...それで、さっきの話なんですが。」


アカネ「大丈夫、忘れてないわ。でもその前にひとつ。」


ナオト「?」


アカネ「東雲くん、本当に強くなったわね。」


ナオト「...いい意味として受け取っておきます。」


アカネ「賢明ね。本題に移るわ。」


アカネ「私たちが今できることは、大きくふたつ。まずひとつは、早坂さんと白雪さんを守ることよ。」


ナオト「守るって?」


アカネ「言葉通りの意味よ。今から、2人を呼びに行くわ。詳しいことは、そのあと。いいわね?」


ナオト「え?あ、はい。」


アカネ「それじゃあ、少し待っていてね。」



桐江さんは、部屋を出ていった。




......


思えば、俺はいつも、桐江さんに助けられてばかりだ。

誰かが死んでは支えられ、また誰かが死んでは支えられてきた。


仕方がないといって自分に何度も言い聞かせてきたけれど、考えてみれば桐江さんだって同じなんだ。


俺に手を差し伸べてくれる人が、桐江さんがいなければ、俺は今頃死んでいると思う。

誰とも手を組まず、孤立した人から死んでいっているんだ。


結局俺は、何もできていない。


Kの能力を桐江さんの前で使ったこと。

今思えばそれだけじゃないか。


桐江さんが縋る場所なんて、どこにもないじゃないか。


できることなら、俺がそうなりたい。

俺だって、桐江さんを支えられるように......




っていうか、そもそも支えるってなんだよ...。


ただでさえ危険な状況なのに、なに人間関係なんて気にしてるんだよ......


何を考えても結論なんて出ない。


頭が、痛くなってきた。



考えることを、やめるしかない。


きっとこの地獄に、正解なんてないんだ。




ドアが開いた。


桐江さんが帰ってきた。


白雪さんと早坂さんもいる。



アカネ「お子様ふたりはそこのベッドにでも座りなさい。」


マリ「杏珠ちゃんはともかく、私はお子様じゃありませんよ!」


アンズ「あ、ちょっと鞠ちゃん!」


アカネ「...ふふ、元気ね。」


ナオト「それで、なんだったんですか?」


アカネ「いい?2人とも。私たちは、あなたを救済するために、話を進めるわ。」


アカネ「え、どういうことですか?」


マリ「救済って?」


アカネ「まず、さっきの皇さんの密告を思い出してみて。相手が車田さんとはいえ、他人を騙して生き抜いたのよ。きっと、これまでいい加減に生きてきた訳じゃないんだと思うわ。そんな皇さんが、どうして猪狩さんに負けたと思う?」


マリ「猪狩さんの方が1枚上手だったとか?」


アカネ「それもあるかもしれないわね。」


アンズ「もしかして、絵札?」


アカネ「それでも半分正解よ。」


アンズ「半分...」


アカネ「猪狩さんが持っていた絵札は、Jだったのよ。それは、東雲くんが証明してくれるわ。」


ナオト「俺がKを持っていることは、白雪さんには多分伝わってないと思うんですけど、もう隠しても意味ないですよね。」


マリ「はい、知りませんでした...」


アカネ「ええ、仕方がないわ。どう考えてもこのカードは、情報を共有したほうがいいもの。」


アカネ「そう、それで。彼女が持っていたのはJ。仮に同じ相手に3回能力を使ったとして、最初に見たカード以外を透視できる確率は2/3、その確率を引けたとしても、もう見た2つ以外の残り1つを透視できる確率は1/3。つまり、Jのカードだけで特定の相手の全ての持ち札を透視できる確率は?」


マリ「2/9ですね。けっこう少ない...」


アカネ「ええ、正解よ。百分率に直すと、約22%になるわ。」


アンズ「え、鞠ちゃん数学できたの!」


マリ「もう!バカにしないで杏珠ちゃん!」


アカネ「...続けていいかしら?」


マリ「あっ、ごめんなさい。」


アカネ「Jのカードだけでは、相手の手札の内訳を全て把握するには心許こころもとないのよ。」


アンズ「Jの他にもなにか持っていたってことですか!?」


アカネ「いや、そうじゃないわ。」


アカネ「3人。」


アンズ「え?」


アカネ「皇さんを殺しに行った人の数よ。」


アンズ「え......」


マリ「......」


アカネ「みにくいものね。群れてかからないと押し通せない決意があるなんて。」


アカネ「......まぁ、起こってしまったものは仕方ないわ。私としては、頼りになる是本さんが、そんなことをするとは思ってなかったけれど。」


マリ「こんな状況です...仕方ないって思うしかないんですよね...。」


アカネ「ええ、その通りよ。」


アカネ「少し話が逸れたわね。本題に戻すわ。飯伏くん、猪狩さん、是本さんの3人は、結託したわ。ところで、その理由は分かるかしら?」


アンズ「他人と結託することで、単純に個人を相手に差をつけてるんですね。」


アカネ「ええ。でも、それをする必要はどこにあるのかしら?」


アンズ「...結託すれば、特定の個人1人を相手に楽勝できる...ってことですね。」


アカネ「彼らは結託することで、着実に1人ずつ殺し、3人で生き残るつもりよ。」


マリ「......残酷、ですね。」


アカネ「救済と言っても、これといって特別な策がある訳じゃないの。でも、あの3人の結託を解散させて、あんな殺害をもう起こさないようにすることは、出来るかもしれないわ。それが最終的に、あなたたちが死なないことに繋がればいいのだけれど。」


マリ「何をするつもりなんですか...?」


アカネ「私が、飯伏くんを密告するわ。」


ナオト「え...?」


アカネ「聞こえなかったかしら?」


アカネ「飯伏くんを密告すると言ったの。」


アンズ「そんな...」


ナオト「そんなの、無茶ですって!」


アカネ「あら、どうしたそう思うの?」


ナオト「確かにあいつに透視を3回使えば、ほぼ確実に密告できます。だけど、あいつはQも持ってるんですよ!」


アカネ「それがどうしたの。」


ナオト「もしうまくQを使われて、たった3度の質問で桐江さんの残りの手札が知られたら?もし横に猪狩さんがいて、あいつが死に際にそれを教えたとしたら...?」


アカネ「...もしもの話なんかしても、埒があかないわ。」


ナオト「でも......」


アカネ「もしかして、私のこと心配してるの?」


ナオト「当たり前、じゃないですか...」


アカネ「ふふ、優しいのね。...でも、今必要なのは優しさじゃないの。一歩踏み出す勇気よ。それに、元はと言えば、操っているのはきっと飯伏くんなはずよ。大元おおもとが居なくなれば、なにか変わるかもしれないわ。......私は、猪狩さんや是本さんには、希望を絶っていないの。」


アンズ「......」


マリ「......」


ナオト「...ひとつ、約束してほしいです。」


アカネ「なにかしら?」


ナオト「絶対、死なないでください。」


アカネ「......守れないかもしれない約束は、しないって決めてるの。」


ナオト「そんなこと...」


アカネ「彼が絵札を2枚持っていることは、分かっているでしょう?仮に3度使って、その2枚しか透視できないとすれば、その確率は(2/3)³で、8/27、およそ30%よ。その確率で、私は彼を密告できないことになるわ。言い換えれば、きっと同じくらいの確率で、私は殺されると思う。あなた達にできることは、私が彼を密告できる70%にかけて、黙って背中を押すことよ。」


ナオト「......」


マリ「...」


アンズ「...私は、応援します。」


マリ「杏珠ちゃん...」


アンズ「きっと、このゲームに安全策なんてないんですよね。飯伏さんたちのグループだって、最低限の危険は承知で動いてるんだと思います。」


マリ「...そう、だよね。桐江さんがやる気なら、私たちはそれを止める権利なんて、もともとなかったんですよね...。」


ナオト「......」


アカネ「ありがとう、2人とも。」


アカネ「...東雲くん。」


ナオト「なんですか...?」


アカネ「あなたがなんと言おうと、私は行くわ。言いたいことは、はっきり言っておきなさい。」


ナオト「俺は...桐江さんに、行って欲しくないです......。」


アカネ「......私たちはきっと、一番に信頼しあっているものね。」


ナオト「やっぱり、行くんですよね。」


アカネ「ええ。」


ナオト「絶対に、生きて帰ってきてください。」


アカネ「まかせなさい。きっと生きて帰るわ。」



桐江さんが笑顔を見せた。



アカネ「それじゃあ、私はもう行くわ。来てもいいし、適当に時間を潰していてもいい。好きにしなさい。でも、もし来るなら、どこか見えないところで見ていなさい。私はあくまでも、正々堂々勝負するつもりよ。」



桐江さんはドアを開けた。


俺たちも、それに続いた。

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