第8話(外伝)

あの気味の悪いアナウンスが流れた。


俺の頭は、真っ白になった。



京介は死んだ。



アナウンスの内容に、間違いはないのだろう。



ロビーに、ひとりの女が歩いてきた。



レイナ「車田さんなら、会議室にいますわよ。」



こいつと話すのも忘れて、俺達は、会議室前へ走った。



マサミチ「すまない、みんな。少し、2人だけにさせてくれないか。」


マサミチ「10分だけでいい。待っていて欲しい。」



アカネ「...ええ。でも、忘れないで。こんなことは、これからも続くのよ。一日弱を共にしたとはいえ、私たちは赤の他人。毎回落ち込んでいる訳には行か」


マサミチ「分かっているさ。ただ、今回だけだ。すぐに立ち直ると約束する。」


桐江の発言に被せるように答えてしまった。


仕方がなかった。


アカネ「...そう、わかったわ。私たちはここで待ってるから。」


マサミチ「あぁ、ありがとう。」



俺は、一足先に、会議室へと入った。


警官をしていれば、恐ろしいが、死体を見ることは慣れるものだ。


だが、京介の死は、俺にとって全く違うものだった。










京介と俺は、20年来の親友だ。


今でこそ忙しくなり、3ヶ月に1度会えるかの日々が続いたが、昔はよく遊んでいた。



京介との出会いは、小学生のころだっただろうか。そこから話しが合い、中学、高校と同じ所へ進んだ。大人になってからは、しばしば会っては、どちらかの家で酒を呑みかわすような仲だった。


言ってしまえば、俺の生活のほとんどに、

あいつがいたようなものだ。



そんなあいつが、今、死んだ。



机に突っ伏して、拳を前に突き出している。



当然だが、脈はもうなかった。




俺は、京介の遺体に近寄った。


死臭がしたが、今はそんなことは関係なかった。




机の上に、京介のタブレット端末があった。





【所持手札: 1,6,9】

【“4”のカードで密告失敗】

【NG行動:他人に暴力をふるう】





......本当に死んだんだな。




マサミチ「なぁ、京介。」


俺は、部屋から漏れないような小声で呟いた。



マサミチ「.........」



だが、それ以上は何も出てこなかった。


少しでも声に出してしまえば自分がどうなってしまうかなんて、もう分かっていた。


とうとう、声を殺し流しているこの涙が、止まらなくなってしまうだろう。



マサミチ「お前は、それで良かったのかよ。」



それでも、言葉が溢れた。



マサミチ「俺は嫌だよ、京介。」



耐えきれなかった。



マサミチ「大切な人ひとり守れないなんて、警官失格だ。俺は。」


マサミチ「はは、無理だろ。分かってんだよ。

でも、なんか、言ってくれよ......」



どれだけ話しかけても、京介がこたえることは無かった。



......東雲は、神木の死をどう乗り越えたのだろうか。


俺には到底、できそうにない。


京介の死を引きりながら醜く生きるしか、俺には許されないのだろうか。




一瞬、彼の後を追おうかとも考えた。


それほどまでに、俺の人生は、京介に占められていた。



マサミチ「......なんだ、これは...。」



机上に、血の文字が見えた。


ダイイングメッセージ、だろうか。






【たのしかったぜ、マサミっちゃん!】






マサミチ「...っ!!」


職業柄、血文字なんて何回も見てきた。


だが、これほどまでに......。




こいつが最期の力で遺したメッセージは、


まるで彼の放つストレートパンチのように、


俺の心に直接響いた。




涙が溢れた。


約束の10分が過ぎそうだ。



...ああ、分かったよ、俺もだ。


マサミチ「俺も、楽しかったぜ。」




マサミチ「けどな、この文字は消させてもらうよ。みんなには見られたくないんだ。」


マサミチ「お前も、そう思うだろ?」



京介が遺したメッセージを、タオルで拭った。



マサミチ「...じゃあ、もう行くよ。」




ドアの方に歩く途中、外の話し声が聞こえてきた。


どうやら、猪狩と飯伏の2人は、皇の所へ行くようだ。



何を考えても泣き顔は晴れなかったが、


ずっとこうしている訳にも行かないだろう。




もう一度京介の方を見た。


マサミチ「また、な。京介。」




俺は、部屋を出た。

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