神の目を持つ少年、異世界に往く

花火師

第1話 出会い

自分は一生人に言われるがまま生きていくのだと思っていた。

そこに自信の感情や意志は含まれず、ただ言われるがままに役目をこなすだけの存在。

それがボク、神眼だ――



何かが頬を撫でる感覚で目を覚ます。

起き上がると、そこは見知らぬ森の中。


ここは…そうだ!


いつも通り役目を終えたあと1人部屋に戻ろうとして足下にあった何かに躓き、倒れた瞬間なぞの光に包まれたんだった。


「……」


なんとなく自分を見下ろすも、見慣れた白地に金の装飾の施された礼服を着ているだけで特に体に異常はない。


周りに目を向ければ、森のような場所で大きな木が立ち並んでいるからか昼間でも薄暗く、知っている場所や今までいたところとは大きく違う場所にいることだけがわかった。

すると、自分に猛スピードで近づいてくる存在に気づいた。

その存在はあっという間に目の前に現れ、こちらに敵意を向けている。

大きな黒いオオカミのような生き物は、狼にはない角を頭部に生やし、血のような赤い瞳をしている。


咄嗟のことで動き出せないでいると、生き物はこちらに飛びかかってきた。


(やられる…!)


咄嗟に手でガードするも、いつまで経っても衝撃が来ない。


(…?)


「***?」


声をかけられ頭を上げると目の前には青い髪の背の高い男がいた。

オオカミのような生き物は飛ばされたのか少し離れたところで倒れている。


「あ、あの……助けてくれてありがとうございます」


とりあえず目の前の男に礼を言い、男に弾き飛ばされ絶命した生き物にちらりと目をやる。


「****」


男は笑顔で何かを言ってくるが、今まで聞いたことのない言葉で何を言っているかわからない。


「****?」


怪訝な顔で何かを伝えてくるが、言葉がわからないためとりあえず首を傾げておく。


ぐぅぅう


「っ!」


と、ここで腹の虫が空腹を伝えてくる。そういえば役目を終えたばかりで昼食はまだだった。


こちらの様子を笑った男は手招きをして、懐から出した包みを差し出してくれた。


包の中にはパンのようなものが包まれており、とても美味しそうだ。


「……ありがとうございます」


おずおずと受け取りお礼を言うと、男は包が食べ物であることを示すようなジェスチャーをする。


ひとつ頷き口に含むと、少し硬めで余計な味付けがないパンだった。


いつのまにか男も同じ物を食べており、2人で食べ終わってからは、歩き出した男の後を追いかけた。


こんな森の中で1人にされてはたまらない、その想いが伝わったのか男もこちらを気遣うようにゆっくり森を進む。


どれくらい歩いただろうか、辺りが暗くなり始める頃、僕たちは小さな洞窟にたどり着いた。


どうやらここで夜を過ごすらしい、火の準備をしている男の真似をして枯れ木を集める。


実際に野宿などしたことはなかったが、本で読んだ知識が役立ったようだ。




「****ガイル」


2人で火を囲んでいると男が自分を指して同じ言葉を何度か繰り返す。


「ガイル?」

復唱すると頷き自分を指差すことから男の名前であることがわかった。


「僕はシェン・イリス」


こちらを指差し首を傾げてきたため、イリスと何度か繰り返す。


「**イリス!**」


どうやら伝わったようでガイルは握手を求めてきたため握り返す。


とりあえず知らない世界で一人ぼっちではなくなったようだ。


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