霊獣エラフィ
あかりたちは東の森をひたすら進んだが、特に何かあるという事はなく平穏に距離を進めた。ある林にさしかかると、あかりの前を飛んでいたティグリスが鼻をクンクンさせて言った。
『なぁメリッサ、霊獣の子供の匂いがする』
ティグリスの発言に、あかりは驚いた。霊獣の守護者とはぐれた霊獣の子供だろうか。あかりはティグリスに霊獣の子供の大体の場所を聞いて耳をすました。すると、か細い小さな声が聞こえた。お父さん、お父さん、と悲しげに泣いているのだ。あかりはつとめて優しい声で言った。
「私たちはあなたの味方よ?出てきてくれない?」
あかりは辺りに声をかけると、辛抱強く待った。するとあかりたちの目の前に突然子鹿が現れた。その子鹿の背には翼があった。あかりは笑顔で子鹿に言った。
「こんにちは、私の名前はメリッサ。あなたの名前は何でいうの?」
子鹿はためらいがちにあかりの顔を見てから小さな声で言った。
『ぼく、エラフィ』
「エラフィよろしくね。ねぇエラフィの守護者はここにいないの?」
あかりの言葉に、エラフィの真っ黒な瞳からポロポロ涙が溢れてきた。エラフィは泣きじゃくりながら言った。
『お父さんがね、ここで姿を消して待ってなさいって。必ず戻ってくるからって。でもお父さん帰ってこないの』
あかりは小さなエラフィが可哀想で、エラフィが怖がらないようにゆっくりと近づくと、エラフィを抱きしめながら言った。
「一人で心細かったわね。もう大丈夫よ、私たちがあなたの守護者を一緒に探すわ」
エラフィは喜んであかりにすり寄った。あかりはエラフィに事のてん末をできるだけ細かく聞いた。エラフィの話によると、エラフィの守護者の霊獣と共に森にいた所、突然守護者に槍が投げつけられたというのだ。守護者は防御魔法でその槍を地面に落としたのだが、その槍はしつこく守護者を追いかけてきたのだという。
守護者は、このままではエラフィに危険がおよぶと考えたのだろう、エラフィに姿を消す魔法を指示して、その場を飛び去っしまったのだ。それきりエラフィはどうしていいのかわからず、たった一人でこの場にいたというのだ。
あかりは、アスランに頼んで土魔法でりんごを作ってもらった。そしてエラフィに食べさせた。エラフィは喜んで食べてくれた。ティグリスもグラキエースもアポロンもりんごが好きなので、皆でりんごを食べた。りんごを食べながら、あかりはアスランに聞く。
「エラフィの守護者に槍を放った人は、魔物と契約しているのかな?」
アスランは考えてから言った。
「まだはっきりとした事はわからないけれど、霊獣を捕まえられる槍を操る魔法なんて普通の人間では難しい」
あかりは槍と聞いて、グラキエースにも聞いた。
「ねぇグラキエース、あなたの脚に刺さっていた槍と同じものなのかしら」
『確証は持てんがの、このわしにケガを負わせるなど相当の魔力の持ち主でなければできん事じゃ』
あかりは不安になってきた。この間の盗賊の親分は、魔物と契約してとてつもない魔力を手に入れたのだ。エラフィの守護者に槍を放った人物が魔物と契約した人間だったならば、とても危険な戦いになる事が予想された。するとそれまで黙っていたグリフが口を開いた。
「そういえばこの土地の近くには、エルナンデス子爵の館があるな」
あかりは山深い村の出身なので、貴族の事はさっぱりわからない。そこでグリフに質問した。
「エルナンデス子爵という人はどういう人なの?」
あかりの質問に、グリフは笑って答えてくれた。
「俺も詳しくは知らねぇが、何でもトランド国王の怒りを買って、隠遁生活を送ってるそうだ」
あかりは、子供のように目を輝かせてアスランとあかりに話しかけていたトランド国王を思い出して言った。
「あのトランド国王さまがお怒りになるの?」
「ああ、エルナンデス子爵は剣の達人といわれる方だった。そこでトランド国王主催の剣技大会に参加したんだ。だがそこで対戦相手を叩き殺してしまったそうだ」
あかりはトランド国王が、アスランが対戦相手をなるべく傷つけないように倒していた事を喜んでいるようだった。トランド国王は剣技や魔法は好きだが、人を傷つける行為は嫌悪しているようだった。アスランがグリフに言った。
「グリフ、君は貴族の事に詳しいんだな」
アスランの言葉に、グリフは失敗した。という顔をしてから不機嫌そうに言った。
「俺はアスランなんかと違って情報通なんですぅ。どんな情報が金儲けにつながるかわからねぇからな」
アスランはグリフの発言を、不謹慎だと言ってなじった。だがあかりはグリフが何か自分たちに言いたくない事があって、それを隠しているように思えた。
あかりたちはとりあえず、そのエルナンデス子爵の館を目指す事にした。
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