第9話 剥製を作る男

「これが紀州の国に、おりました鬼の首になります」

山寺の和尚に、木箱から取り出して見せる

和尚は興味深そうに、

「なるほど、これは鬼気迫りますな」

「いただきましょう、いかほどになりますか」


代金を貰い山を下る

俺は剥製を作りながら、諸国を旅している。

坊さんに、貴重なバケモノを提供することで食を得ている


奇怪なものは見世物にもなる。

檀家などに見せて、仏様のありがたさを教える。

ありがちな話だが、娯楽の無い山奥では余興として貴重な存在だ

買う側も了解して金を出している。


バケモノと言っても、実在をするわけではない

動物の体を利用して、変形をさせたりする

時には別の動物同士の体を縫い合わせる


その日は、山を下り切れなかった。

途中の村落で休ませてもらう事にする

旅の人間は、丁寧に扱われる

金も払うが、情報を得られるからだ。


「夕飯ができました」

飯に呼ばれて囲炉裏に座ると、美しい娘と年老いた父親が座る

「娘さんは、お美しいですな」

ここまで美しいと、お世辞ですら皮肉になる。


「はい、この村ではもう若い男がおりませんので、嫁にもやれませぬ」

悲しげな父親は、娘から飯の椀をもらい食べている。

「近隣にもおりませんか」

俺は不思議に感じた、この器量なら、遠くからでも嫁に欲しいと

思うだろう。


父親が少し黙ると、しぶしぶと言い訳をする。

「この村は、あまり他の村と行き来がありません」


俺は、触れてはいけない禁忌があると考えた。

娘から飯の椀をもらうと黙って食べる事にした。

夜になり、俺は囲炉裏で寝る事にする

粗末な掛け布団だけ、もらうと板敷きの上で寝る

馴れているので、すぐ眠れた。


「おきてください」

俺はぐいぐいと体をゆすられる、娘が俺を起こしていた。

「なんです」

寝起きでぼんやりする頭で、危険がある事がわかる。

「わたしと逃げてください」


娘は軽装で逃げるのは難しいと思えたが、とりあえず連れ出す。

夜の道はもちろん危険だ、娘が先に進み

辻まで行くと村人と坊主が居た。


「ごめんなさい」

すまなさそうな顔で

娘は俺から手を離して、父親の方へ行く。


坊主が

「そのふところの代金を返してもらいましょうか」

「金を出せば、生かして返します」

あの村落は寺も含めて、悪党が支配をしていた。

わざわざここまで連れ出したのは、死体を始末しやすいからだろう

辻強盗に見せれば良い。


俺は、やれやれと思いながらバケモノに変化した。

頭に牛の角を生やし、巨大な体は人の何倍もの力がある。


坊主も含めて村人の頭を、花をつむようにもぎ取る。

美しい娘は

「・・・・・」

言葉にならない声を出しながら泣いていた。

もう正気には戻らないようだ。

「お前には罪が無いが、ゆるしてくれ」


「これは越中で捕まえた人魚です」

坊主がめずらしそうに見ている

「これは美しいですな、破格の金で買いましょう」

俺は娘の頭とおおきな鯉を組み合わせて剥製にした。

これほどの手際は、人間にはできないだろう。

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