第7話 前妻の古鏡

古道具屋は手鏡を見せながら

「いわくつきですよ」と断りをいれた。

以下は古道具屋の語り


「武家の奥様のもちもので」

「何代も嫁ぐときに持たされた鏡と聞きました」

「裏を見ると縄模様の奇妙な細工がされています」

「もしかしたら上代のものかもしれません」


「奥様は体も弱く、床にふせる事も多かったようで」

「長くは無いとご自身も悟っていたのでしょう」

「殿様に死んだらこの鏡の持ち主がいなくなる」

「後添いにお渡しして大事にしてもらいたい」

「と懇願されて殿様も了承いたしました」


「ほどなくお亡くなりになり、後添えももらい」

「なにごともなく過ぎましたが」

「後妻の方が長持にある鏡をみつけます」

「先妻の鏡でした」


「殿様はお約束を守らずに、後妻にお渡ししていなかったのです」

「普通に考えれば、先妻の持ち物を後妻に渡すわけもありません」

「特に鏡ですからね」


「鏡は魔を避けるとも魔を呼ぶとも申します」

「呪物としての鏡もございますから、おいそれとお渡しできません」

「後妻は見つけた鏡が気に入り毎日お使いになったそうです」

「しばらくすると、後妻のお顔が変わってきます」

「先妻のお顔に似てきたのです」


「それもお亡くなりになる前のお顔に似てきます」

「そうなるとお殿様も気味悪くなり遠ざけてしまいます」

「鏡のせいでしょうか、毎日お顔を見る事で変貌したのでしょうか」

「後妻はそのままお宿下がりで実家に戻されてしまいます」

「鏡はまた長持の中に収まりました」


「捨てるわけにもいかず収まったままでしたが」

「なにかの拍子で叔母がみつけ愛用してしまいます」

「同じ事の繰り返しで鏡は叔母の顔も変えてしまいます」


「これは怪しからぬということで、高名な僧に頼み」

「祈祷などおこなうと、鏡を調べて魔鏡とわかりました」

「魔鏡というのは細工された鏡で」

「光を当てると反射した先に文様が現れます」

「仏様や異端の神などを細工で描く場合もあるそうです」

「主に信仰のためです」


「しかし普段に使う手鏡を魔鏡にはしないでしょう」

「僧は念で手鏡が魔鏡に変わったのだろうと考えました」

「先妻の念が封じられたのかもしれません」


「手鏡を見ることで、見た者を自分と同じ容姿にしてしまう」

「そんな悲しい魔鏡を作り上げてしまったと」


「手鏡はそのまま寺であずかりましたが」

「このご時世で寺を次ぐ者も居なくなり、こうして道具屋で」

「扱う事になりました」

そう語ると古道具屋は手鏡を反射させて壁に映してみせた

美しくはあるが悲しげで死期を悟った女の顔が浮かぶ



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