3.謎な大収穫

「へぇっ!?」

 目を真ん丸く見開き、あっけにとられるソフィー。

 二人はグングンと上昇し、森がどんどんと小さくなっていく。

「そうそう、こうすれば飛べるんだった。きゃははは!」

 シアンはうれしそうに笑った。

「ちょ、ちょっと! えっ!?」

「それでこうだ!」

 シアンが叫んだ直後、激しい閃光がゴブリンたちを包む。


 ズン!

 白い繭のような衝撃波が音速で球状に広がり、森の木々は一斉になぎ倒され、激しい熱線を浴びて燃え上がる。そして、巨大な灼熱のキノコ雲が深紅の輝きを放ちながらゆっくりと立ち上った。

「あわわわわわ……」

 まるでこの世の終わりの様な地獄絵図にソフィーは驚き、言葉を失ってしまう。

「ゴブリンもこれなら退治できたかな?」

 シアンはニコニコと嬉しそうだったが、ソフィーはただ、燃え上がる森を呆然ぼうぜんと見ていた。


        ◇


 飛び方を思い出したシアンは、そのまま超音速で王都へと飛ぶ。

 遠くに見えてきた城塞都市、王都は中世ヨーロッパを思わせる石造りの美しい街だった。

 ソフィーはとんでもない人と関わってしまったと後悔しつつ、もう後には引けない現実に打ちひしがれ、その美しい街並みをボーっと見ていた。

「で、どこ行けばいいの?」

 抱いている生首が聞いてくる。

「まずは教会へ行ってみましょうか? あの尖塔がきれいな建物です」

 困ったらまず教会に行ってみるのがこの世界の習わしだった。

「分かったよ!」

 シアンは速度を落としながら高度を下げ、着陸態勢に入った。


      ◇


 ダン!

 人気ひとけのない裏路地に乱暴に着陸したソフィーは、両足がしびれ、しばらく動けなくなった。

「ちょ、ちょっと! もうちょっと優しくしてよ!」

 思わずソフィーは文句を言う。

「ゴメンゴメン、これでも手加減したんだけどな。きゃははは!」

 屈託なく笑うシアンを、ソフィーはジト目でにらんだ。


     ◇


「ここ……かな? よいしょっと!」

 ソフィーは尖塔の美しい荘厳な大聖堂の大きなドアを、力を込めて開いた。

 中は広く、美しいステンドグラスが全面に渡って施されており、陽の光を浴びて色鮮やかな模様が床に斜めに光っている。

「うわぁ……」

 ソフィーは初めて見る王都の教会の桁違いの立派さに圧倒される。

 正面奥の壇上には大理石でできた巨大な女神像が飾られていた。

「あ、美奈みなちゃんの像だ!」

 シアンはうれしそうに言う。

「ミナ? あれは女神のヴィーナ様よ?」

 ソフィーは首をかしげながら言う。

「うちの会社ではみんな美奈ちゃんって呼んでるんだ。本人の方がもっと綺麗だけどね」

「え? 会社? 本人?」

 ソフィーはシアンが何を言ってるのか全く分からなかった。

 すると、シスターがニコニコしながら近づいてくる。

「何か御用ですか?」

 独り言をつぶやいてるヤバい奴と思われたに違いない、と思いながら、ソフィーは真っ赤になって言った。

「あっ、あのぅ……。トウキョーのタマチって場所を探しているんです」

「トウキョーのタマチ? うーん、どこでしょうね? 司教様に聞いてみましょうか?」

 シスターは首をかしげながら言う。

「お、お願いします!」

 ソフィーは頭を下げた。


       ◇


 しばらく待っていると、金の刺繍が施された立派な法衣をまとった男がニコニコしながらシスターに連れられてやってくる。

「こんにちは。あなたですか? 東京の田町について聞きたいというのは?」

「そ、そうです」

「何のために?」

 司教は笑顔とは裏腹に鋭い視線でソフィーを射抜く。

「えっ? あの、その……。友達がそこへ行きたいらしくて……」

「東京の田町ってどういう所かご存じですか?」

「い、いや、全く……。私は友達に聞かれただけなので……」

 司教の高圧的な態度に気おされるソフィー。

「ふむ。教会は東京の田町なるものは知らないです。ごめんなさい」

 そう言うと、司教はきびすを返し、カッカッカと靴音高く響かせながら去って行った。

 ソフィーは何だか酷い対応をされた気がして、肩を落としながら教会を後にする。

「ごめんなさい。王都でも分からなそうだわ……」

 そう謝るソフィーだったが、

「いやいや、大収穫だよ。そこの細い路地に入って」

 シアンはニヤッと笑った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る