第35話

 そんな私の代わりに、兄さんは語り続ける。


「数ヶ月前……ライリーを見ていて、思ったんだ。想いを伝える前に、好きな人が、この世から去ってしまった彼は、どれだけ辛かっただろうって……そして、俺自身の想いについても、よく考えた。……これから、何が起こるか分からないから、今のうちに言っておくよ。俺は、お前が好きだ。妹としてではなく、一人の女性として、大切だと思ってる」


「うん……」


 それはもう、知っていた。

 知っていて、私はいまだ、兄さんの想いにどう答えるか、判断を迷っていた。


 ……いや、もしかしたら、私の想いは、もう決まっているのかもしれない。


 ただ、今はまだ、変わりゆく二人の関係性に戸惑い、恥じらっているだけなのだ。時が経てば、私はいずれ、兄さんを……いや、ハーキースを、一人の男性として、見ることができるだろう。


 だが、その前に、人としての筋道として、婚約者ルドウィンとのことに決着をつけておかなければならない。そう思い、王都ガストネスでの復興作業に務めながら、何度か彼に手紙を送ったのだが、一度も返信は来なかった。


 ……正直言って、ルドウィンに対する想いは完全に冷めていた。


 それでも、きちんと話をして、これからのことを決めるべきだと思っているのだが、返事が来ないことにはどうしようもない。私はその後も、町の復興作業と同時に、聖騎士団長官としての任務を果たしながら忙しい日々を過ごし、気がつけば、さらに数ヶ月の時が流れていた。


 動乱から約半年がたったことで、町は完全に復興し、本日王城にて、ずっと先延ばしになっていた、私の聖騎士団長官就任セレモニーが開かれることになった。


 その日の朝、ヘンリアム聖王国全土に対して、『史上初の女性聖騎士団長誕生』という見出しの新聞が発行された。王都の情報はなかなか遠くの地方まで伝わらないので、田舎に住んでいる人は、その日初めて、聖騎士団長官が変わったことを知ったことだろう。



 午後三時から始まったセレモニーはおごそかに進み、滞りなく終わった。


 緊張から解放された私は、王城の控え室にあるテラスで一人、紅茶を飲んでいた。


 突然、テラスのガラス戸が勢い良く開く。

『ノックもなしに、いったい誰だろう』と思い、無粋な闖入者を見やると、そこには見知った顔がいた。


 なんと、あのルドウィンだ。

 何度手紙を出しても、一通の返事もよこさなかったのに、いったいどういう風の吹き回しだろう。


 ルドウィンは、笑っていた。

 相変わらず、目も鼻も、顎も美しいが、嫌な笑顔だった。

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