第20話
兄さんの言った、『家族の平和を保つ』という言葉が、なんだかじぃんと胸に染みる。
父さんのことを散々頑固だ短気だと言ってきたが、私もかなり頑固で気が短いので、今にして思えば、私の言動が原因で父さんを怒らせたことも、多々あったのだろう。そんな私と父さんの間を取り持つのに腐心していた兄さんは、さぞ苦労したに違いない。
兄さんは背が高く、性格的に落ち着いているのもあって、レシシュ村の人たちは兄さんを成人だと思っているが、実は私と1歳しか違わず、まだ未成年である。
そんな、私とほとんど年齢が変わらない、それも、血のつながりすらない兄さんに、私と父さんの関係について、とても気を使わせていたことを、今更ながらに申し訳なく思う。
「ごめんなさい、兄さん……私、兄さんが父さんと私のことを、そこまで考えてくれてるなんて、思ったこともなかった……」
「いや、こっちこそすまない。なんだか、恩着せがましい言い方になってしまった。……俺は、駄目だな。いつまでも兄貴面で、お前を小さな妹扱いして、偉そうな口をきいてしまう。こんなんだから、お前に嫌われるんだな」
思ってもみない言葉に、私は目を丸くする。
「ちょ、ちょっと待ってよ。私、兄さんのこと、嫌ってなんかいないわよ」
「しかし、いくら親父とのことがあるとはいえ、この一年、顔ひとつ見せてくれなかったじゃないか。何度か村には帰って来ていたのに」
これまた、思ってもいない言葉が出て、驚いた。
私がルドウィンに会うために、数ヶ月に一回レシシュ村に戻っていたことを、兄さんは知っていたらしい。純粋に不思議に思い、私は尋ねる。
「ど、どうして、私が村に帰って来ていたって、知ってるの?」
「そりゃわかるよ。お前はあんまり気にしたことがないかもしれないが、小さな村だからな。人の出入りがあると、そういう情報はすぐに伝わってくる」
「そ、そうなんだ……」
こ、これは気まずい……
田舎の情報網、恐るべしである。
「正直に言えば、お前がすぐ近くまで来ているのに顔も見せてくれないのはちょっとショックだった。でも、おかげで……と言うのも少し変だが、自分の今までの言動や振る舞いについて、ゆっくり考えることができたよ。それで、今度お前が帰って来てくれときは、昔よりも、ずっと優しい、面倒見の良い兄貴として出迎えてやろうと思ったんだ」
「そうだったの……でも、さっきも言ったけど、私、兄さんのこと、もともと嫌ってなんかいないわよ。『大好き』ってわけでもなかったけどね」
「じゃあ、どんなふうに思ってたんだ?」
「う~ん……好きか嫌いかで言えば『ちょっと好き』と『普通』の中間くらい……だったかな」
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