第17話
何故、兄さんがついて来るのか。
私は、出発前にした兄さんとのやり取りを、思い出す。
『ちょっと、兄さんまで旅支度をして、どうしたの? それに、剣まで持って。まさか、ついてくるつもりじゃないでしょうね?』
『そのまさかだよ。足手まといにはならないつもりだから、安心してくれ』
『いや、でも、そんな……兄さんを巻き込むわけには……』
『巻き込むとは、他人行儀だな。たとえ危ない目にあうとしても、魔物と戦うお前を心配しながら家で待ってるよりは、ずっといいよ。……俺はな、この三年間、お前に引っ付いてでも都に行き、騎士団に入れてもらうべきだったかもしれないと、ずっと考えていたんだ』
『…………』
『それに、さっき言っただろ、お前の乗る馬は、大好きなブラッシングをして機嫌を取らないと駄目だって。あいつは、俺以外がたてがみに触ると機嫌を崩すんだ。だから、お前ひとりであいつの機嫌を取りながら進もうとした場合、たぶん倍は時間がかかってしまうだろう』
『ば、倍って……それは困るわね』
『だろ? それに、適切な補給のタイミングを見極めるのも、けっこう難しいんだ。そういうのは、全部俺に任せてくれよ』
……と、そう言われては拒否することもできず、こうして二人、一緒に旅をすることになったというわけである。
兄さんと父さんが、手塩にかけて育てた駿馬二頭のスピードは大したもので、見る見るうちに景色は移り変わり、日が暮れる頃には、もう旅程の半分を進むことができた。
ちょうど、宿場町に差し掛かったところで兄さんが馬のスピードを緩め、私に言う。
「今日はここで宿を取ろう。走り通しで、馬も少し疲れてきている。美味い飯をたっぷり食わせて、休ませてやらないとな」
異存はなかった。
私は、今日一日、朝から日暮れまで頑張ってくれた白馬の頭をいたわるように撫で、宿場町に入る。
山間の、どこにでもあるような町だった。
それでも、旅人たちでそこそこにぎわっており、酒場や、遊興施設がいくつか確認できる。もっとも、遊びに来たわけではない私たちには、何の関係もないことだが。
兄さんは馬上から町を見渡し、私に向き直ってから、口を開く。
「よし、宿を探そう。どこでもいいんだが、できれば馬をゆっくり休ませられる、大きな馬小屋がある宿がいいな」
「そうね。えっと……あっ、あそこなんてどう?」
私は、視線の先にある宿を指さした。
普通の家屋とさほど変わらないサイズの小さな宿だが、隣にある馬小屋は素晴らしく立派である。……ぱっと見では、どちらが人間の泊まる建物か迷うくらいだ。
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