2.平穏を望む。
「日和、これは?」
「あー…そっちに運んでくれる?」
了解、そう言って綺麗な顔立ちをした男はダンボールを運ぶ。
彼の名前はチヤ。先日からうちに住み着いて居る男である。
父の死の報せから一週間経ったあの日、扉を叩き私に接触して来た彼は「お前を守りにきた」と言った。何を言ってるんだこの男は、そう思い帰って貰おうと思ったが男の様子が尋常じゃない事が伝わり、取り敢えず話を、と家の中に入れた。そこから始まる男の話。父の死の真相が分かってしまった話。
父は軍の研究施設の開発者であった。なんでもAI搭載の人型ロボット、つまりはアンドロイドを作っていたらしく。父も最初は世のためになるなら、と作っていたらしいが軍がそのアンドロイド達を戦争に投入し始めたらしい。父はそんな話は聞いていない、と軍の上層部に抗議。しかし軽くあしらわれ終わった。そして父はアンドロイドの制作を拒否。稼働している全てのアンドロイドもストップさせようとしていた。軍の上層部はそんな事を認めない。しかしアンドロイドの造り方も止め方も知って居るのは父だけ。ならこれ以上の数は望めなくても、今存在するアンドロイドを失う事は止めたい。そんな軍の上層部は父を殺した。——アンドロイドを失わないように。
その話を聞いた私は唖然とした。そんな理由で父は殺された?アンドロイドのために?それだけでも理解がなかなか追いつかなかったのに男はまだ言葉を続けた。
「軍の上層部は君ならアンドロイドの造り方を知っているのではないかと、お前を狙っている」
何を言われて居るのかさっぱりだったが、男の話はこうだ。
軍の上層部は私がアンドロイドの造り方を知っているとみて、私に造らせようとしている。もし知らなかったとしても、それが嘘であり私が独自にアンドロイドを造るかもしれない。知らないと答えるか製造を拒否するようなら、殺せ、と。
命を狙われてるかもしれない。それだけは理解出来た。それを理解した瞬間から震えが止まらなくなった。そんな私に男は言った。
「だからお前を守りに来たんだ」
ガシャン、大きな音がたち、ふと意識が現実に戻る。驚いて音がした方を見ると、そこには腕の取れたチヤがいた。……そう、腕の取れた。
「すまない、日和。驚かせてしまった」
「大丈夫だよ。……色々驚いたけど。それより、大丈夫?」
「今付けるから問題ない」
人間の腕がそう簡単に取れたりつけたりできるはずがない。そう、チヤもアンドロイドなのだ。
「……ごめんね。私、お父さんと違って機械とか詳しくないから」
自分も父と同じ分野の人間だったなら、そう思ったらつい出てしまった言葉だった。それをしっかり聞いていたらしいチヤは顔をしかめて言葉を放った。
「俺もいつかは壊れるんだ。もうその事実は変えられない。だから、日和が謝ることはない」
「……うん」
チヤはいつか壊れる。それはこの先最終的には、の話ではなく、もうほぼ決まっていること。父は殺される前に全てのアンドロイドに「呪い」をかけた。それは非科学的なものではないがアンドロイド達からすれば「呪い」。……終わりが、来るのだ。ある一定の時間が経てばアンドロイド達は内側から壊れるように、開発者である父が呪いをかけた。それは明日なのか10年後なのか、チヤもわからないらしく。せめて、それまで守らせてくれ、とのことだ。
「何事もなければいいのになあ」
普通に明日が来れば、ただそれだけでいいのに。
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