眠れ、愛しき人よ。

紫苑

1.あなたと出会った。

父とは希薄な関係だった。何故なら父は軍人で、軍の研究施設に居ることが多かったからだ。

 母はいない。母は私が幼い頃に病で亡くなったから。

父からの仕送りもあり私は普通に暮らしていた。高校に通い、勉強をして、友達と遊んで。寧ろ父が軍でそれなりの地位のために、人より裕福だったのではないかと思う。

 しかし、その父も亡くなった。

 原因など分からない。教えてくれない。誰も、誰も。ただ軍のお偉い方が来て「君のお父さんは亡くなった」……それだけ。元々疎遠だった事もありそんなに悲しくなかった、多分だけれど。心にぽっかり穴が空いたような感覚には陥った。もしかしたら悲しかったのかもしれない。

 父の遺体すら戻ってこなかった。だから葬儀も出来なかった。残されたお金でお墓を建てて、そこには骨もないけれど父を想って祈りを捧げた。

 父の死の報せから一週間。

 それなりに大きな父が遺した一軒家に住んでいた私の元に、変わった来客があった。

 その日私は学校から帰宅し、父の遺した数少ない本などを整理していた。そんな時。ドンドン、と家の玄関の扉を叩く音が聞こえて来た。チャイムを鳴らさない様子から、悪戯か何かかと思った。それでも鳴り止まない扉を叩く音。私は怖くなって動けずに居た。身を固くしていると、少し声が聞こえてきた。「開けてくれ、開けてくれ」と。

 その時、私の勘が「開けろ」と言った。怖さなんてなかったかのように、ふらふらと玄関まで行きドアノブに手をかける。扉を開ければそこには綺麗な顔立ちをした男が一人。見た事もないような綺麗な顔に思わずマジマジと見入ってしまう。

「あの、何か……?」

 そう尋ねればその男は私の両腕をがっちりと掴み、こう言った。


「お前を、守りに来た」

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