第2話 異世界召喚

 俺は渚飛鳥。今年大学に入学したばかりの大学生だ。


 家族の俺から見ても美男美女の両親から生まれ、母親似の可愛い顔立ちのせいで、周りからかわいい女の子みたいと言われ続け、馬鹿にされたくなくってジムに通っては体を鍛え、男らしい体型を目指している。


 まあ、あまりごつい体だと顔との違和感が凄いから、両親からは程々にしろと言われ、いわゆる細マッチョって奴だけど。


 そんな訳で今日も日課のジムに向かうため、準備をしていると母さんに呼び止められた。


「飛鳥、今日もジムに出掛けるの? 最近何だか外で変な事件が起きているから気を付けて行ってね」

「何だよ、母さん。あのニュースを信じているの? あんなの作り話だって」


 最近、巷で騒がれているニュース。

 それは、若者が神隠しに遭って行方不明になっているというもの。そんなの誰が信じるんだよ。


 目撃者の話では、天高く光の柱が立ち、その中にいた若者が消えてしまったと。有り得ないって。どっかのファンタジー小説じゃないんだから。


 まあ、それが一件ならここまで騒がれないんだろうけど、もう何件も起きているし、俺と同年代の若者ばかりっていうのもあるから、母さんも心配をしているみたいだ。

兄弟もいない一人っ子だからな。


「まあ、とにかく行って来るよ。いつもと同じで二時間位で帰ってくるよ」


 俺はさっさと準備を済ませ、ジムに出掛けて行った。


 外を歩いていれば、すれ違った女の子から、あの子可愛いねという声が聞こえてくる。


 どうせ言われるのなら、俺は可愛いじゃなくて、格好いいと言われたい。やっぱり、もう少し筋肉付けて体格をごつくした方がいいかな?


 電車の中でも、あの子可愛いねと女の子達が囁いている。男に至っては、あいつ女みたいじゃねと……。


 くそっ。好きで可愛らしい顔してるんじゃねえよ!


 ジムに着いて、鏡を見ながらボディビルダーになった自分を想像してみる。

  

……。

…………。

………………。

 

 いや、やっぱり顔と体のギャップが、自分で想像しておいてなんだが、気持ち悪い……。


 今のままの細マッチョで行こう。でももう少し位なら筋肉増やしてもいいのかも。いつも通りベンチプレスからトレーニングを開始する。すると、俺を見つけたトレーナーが近づいてくるのが分かった。


「飛鳥。今日も来ているな。毎日、ご苦労さん。今日も同じトレーニングかい?」

「はい、全身をマシンで鍛えて、ルームランナーでランニングした後、フリーウェイトトレーニングしたら帰ります」

「そんなに鍛えてどうする? ボディビルダーにはならないって言っていただろ」

「別に。ただ、体くらいは男らしくありたいだけです」

「ふーん。まあ、無理して体を壊さないようにしろよ」

「はい」


 二時間みっちりトレーニングした後に、プロテインをぐっと飲む。トレーニングした後のこのプロテインは欠かせないな。さあ、帰ろう。シャワーを浴び、汗を流しジムを出た。


 駅に向かって歩いていると、何だ。あの集団は? 三十メートル位先に二、三十人位の集団がざわついている。気になったから、俺もその集団の所に行ってみた。


 マジかよ。


 そこから見えるのはビルとビルの間から、白い光の柱が立っているのが見える。


「おい、あれって、ここ最近騒がれている神隠しの光の柱じゃないのか?」

「また、誰か消えたの?」

「こっちには来ないよな?」


 神隠しの光の柱なんて全く信じていなかったのに、この目で見るなんて思ってもなかった。あれが本物の神隠しの光の柱なのかは分からない。でも、あれに巻き込まれて、神隠しになんて遭いたくない。


 とっとと家に帰った方がいいな。俺はすぐにその場から離れ、駅への道へと戻る。


 それにしても、あの光、一体何だよ。

 本当に神隠しが起きているのか?


 いや、そうと決まった訳じゃない。ニュースで騒がれているから、誰かの悪戯なのかもしれない。もう駅に着くな。家に帰った時の話の種になるか。母さんも父さんも俺が光の柱を目撃したなんて言ったら、びっくりするだろうな。


「おい! あんた! おいっ!」


 何だ? あのおっさん。俺が何かしたか?


 知らないおっさんが、俺に向かって叫んでいる。あんまり関わりたくないけど、何か慌てているからしょうがない。答えてやるか。


「何ですか?」

「いや、何ですか、じゃないぞ! 足下、足下見てみろ!」

「足下?」


 俺はおっさんに言われて、自分の足下を見てみた。


 はっ!?

 何だよこれ?


 俺の足下が白く光っている。俺はすぐに光の上から飛び退いたが、着地した場所に光は移動してきた。


「嘘だろ。俺が神隠しに? 勘弁してくれよ」


 俺は駅に向かって走り出した。光は俺の足下から離れることもなく、ピッタリと付いてきている。


 そして、光の柱が俺を囲んだ。すると、光の中から声らしきものが微かに聞こえてきた。


「み…………た。……す……て……」

「………ぞ」


 白い光がピンクに変わる。


「何だ、一体何が起こっているんだよ」


 ピンクの光が眩く輝き、俺の視界はピンクしか見えなくなった。


 うーん。どうやら俺は気を失っていたらしい。何かの声が聞こえて、白い光がピンクに変わった所までは覚えている。


「何だったんだ、一体……」


 俺は周りの景色を見て驚いた。さっきまで居た街の中じゃない。周りは平原だ。


「ここは一体どこだ?」


 うん? いや、待て。さっきから誰の声だ? 俺が喋っている筈なのに、知らない女の声が聞こえるんだが。それに何だ? 何か胸が苦しい。さっきの光でどこか打ったか?


 うん?

 ナニコレ?

 え?

 え?

 えーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー?!


 男の俺にある筈の無い物が俺の胸に付いている。いや、何かの冗談だよな。俺は、自分の股間に手を触れた。


 無い!?

 無いよ!?


 男にある筈の物が無く、ある筈の無い物が付いている。おっぱいが……。


 しかも、デカい。デカ過ぎじゃね?


 自分に起きた事が理解出来ずに慌てていると、近くの草からガサガサと音が聞こえてきた。人か? 人なら、ここがどこなのか教えてもらおう。


 草の中から現れたのは体長三十センチ位の水色のゼリー状の物体。うん。これって、もしかしなくてもあれだよね。絶対あれだよね。


「ス、スライム!」


 スライムは俺の叫び声に気付いたのか、こっちに向かって跳ねて来る。


「に、逃げろぉぉぉぉ」


 俺はひたすら走った。とにかく走った。息が切れて苦しい。そして、胸が弾んで邪魔。ただ邪魔だ。


 スライムの姿が見えなくなり、立ち止まると、深呼吸をして息を整え、状況整理だ。まず、胸を揉む。柔らかい。本物だ……。本物のおっぱいだ。


「渚飛鳥」


 自分の名前を言ってみる。うん。間違いない。この知らない人の声は俺の声だ……。


 女だよ、俺……。


 そして、さっきのスライムといい、この知らない平原といい、どうやら俺は知らない世界に飛ばされたみたいだ。それとも、あの光に巻き込まれて死んでしまって、転生したとか? いや、転生したのなら、赤ちゃんだろ。どう見てもこれは大人の女性だ。つまりだ。


 俺は異世界に転移して、女に性別転換したらしい。

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