試験とモモ級回復ポーション 8

「クッカー置いてきたよ」

「ありがとうございます!」

「サンキュ。その本何?」

「この班の総評だって。あ、いい作戦だったねって褒められた」


 手を出してきた陽夏に冊子を手渡し、隣に腰かける。

そんな私たちを、結衣ちゃんは不思議そうな顔で見つめてくる。


「お二人の関係って、お友達ですか?」

「うん。友達」

「兼幼馴染と腐れ縁ってヤツー」

「腐れ縁はひどくない?」

「事実っしょ」


 わいわいと言い合う私たちを見て、結衣ちゃんは「いいなぁ」と呟く。


「そんなに仲のいい人がいるって、羨ましいです」

「でも結衣ちゃん、人数であぶれてただけで仲良さそうなお友達、いるよね?」

「あの子たちはお友達ですけどグループですもん。ペアで分かれろって言われたら、余るのはいっつもあたしです」


 結衣ちゃんは膝に顔を埋める。

どことなく幼く見えるのは、手入れのされている髪をツインテールにしているからだろうか。


「今日だって、二人と三人に分かれればよかったのに。四人の方が効率いいからって、ごめんって言われましたけどぉ」

「それ、友達じゃないじゃん」


 陽夏は彼女の鬱々とした愚痴を、ばっさりと切り捨てる。

結衣ちゃんは目をぱちくりと瞬かせ、呆けている。


「自分たちの都合のいい時だけグループに入れてさ、都合悪くなるとハブるのは、それ、友達と違くない?」


 正論だ。

しかし、あっさりと受入れ答えを出すことは難しい。

彼女は小さく唸り声を上げる。


「……でも、あの子たちいないと、あたしお昼ご飯ひとりぼっちなんですよ」


 私は陽夏と顔を見合わせる。

私は陽夏や姉が傍にいてくれるから、ひとりで食べるご飯の味を知らない。

でも、結衣ちゃんはその味を知っているのかもしれない。


「……結衣ちゃんがやりたいようにやればいいと思う。急に言われても、いきなり考えを変えるって、結構難しいと思うし」

「……ん。ウチも勝手なこと言った。ゴメン」


 陽夏が謝ると、結衣ちゃんは顔を膝に埋めたまま、首を横に振った。


「大丈夫です。それよりも! 総評見ませんか?」


 空気を変えるように、結衣ちゃんは明るい声を出す。

そのことをありがたく思いつつ、陽夏に視線を遣ると、彼女は持っている冊子を一枚開く。


「『即席のグループで、息を合わせる追い込み猟という方法を思いついたことがグッド。実際にうまく追い込め、確保できたことがすばらしい』。だってよ」

「照れるね」

「あ、でも次のページ注意事項みたいです」


 『ただし、今回捕まえた魔物はカク・ボア。カプセルのため威力はないが、実物はもっと大きく、ぶつかれば砲弾並みの威力がある魔物。そのため、今回の追い込み猟では、待ち構えた時にぶつかる、あるいは追いかけている間に逆上されて損傷を負う可能性がある。今回と同じ手法を取るのなら、タンク役の人を立てるか、魔物の軌道を計算し、罠を張ることを勧める』


「なんか、お褒めの言葉よりもボリュームたっぷりな気がするんだけど」

「それだけ反省点が多かったってことっしょ」

「あー、そっかぁ、実物を想定していませんでしたね、あたしたち……」


 三人で肩を落とす。

これで実践でなくてよかった、という安堵と共に。


「あと一ページ残ってっけど、どする? 見る?」


 陽夏はこの空気を呼んで、勝手に開くのではなく、私たちに選択肢を与えた。


「私は問題なし」

「あたしも平気です」


 とはいうものの、何が書かれているのか分からず、ドキドキするのも事実。

陽夏の手によって恐る恐る捲られたページを見ると、『講習のお知らせ』と書かれている。


「えっと、魔物の解体講習のお知らせ……」

「そいや、今日は解体まではやってなかったっけ」

「今回はカプセルのボタンを押すだけでしたもんね」


 また辛口な言葉が書かれているかと思っていただけに、拍子抜けする。


「……でも、これめっちゃ必要じゃね?」

「そうですね。魔物を倒してすぐお肉が手に入るなんてないですもんね」


 頷き合っているふたりに同調しつつ、もう一度講習のお知らせを見る。

日付も時間も全く書かれていないのは、詳細は受かってから、とそう言う意味なのだろうか。

私はそっと、冊子を閉じた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る