アンコールは白紙に

九十九まつり

オープニングは幸せと共に

奴隷となったのは幸せかもしれない

 前世一般人の女だった私は転生し、女の子と見間違うほどの美少年となった。美しい白い髪に大きな灰色の瞳、将来は儚い系の美青年になれるだろう。しかも母が妖精、父が人間という異種間のハーフで、両親はとても優しかった。母は宝石の妖精で、様々な宝石を作れた。息子である私…いや、これからは僕と言おう。僕も宝石の妖精の血を引いているため、もう少し大きくなったら自由自在に宝石を作り出せるようになるといわれた。これで将来はお金持ちになれると内心喜んでしまった。今は自分の意志と関係なく、感情が昂るとたまに宝石を作り出してしまうこともあり、両親は僕が悪い人に狙われてしまうのではないかと、とても心配していた。そんな中、森の奥で両親と自給自足の生活をし、穏やかに日々を過ごしていた。


 ある日のことだった、両親とともに初めて町へ行った。森の奥とは違って、ずいぶんと賑やかで、前世とも違う異世界の街並みに目を輝かせていた。その日は楽しく買い物をして、いつもと同じように自分たちの家で、楽しく話をして眠ると思っていた。


 しかし、帰り道に宝石の妖精である母を狙った賊に襲われ、両親と離れ離れになってしまった。走って走って、町へ行き、親切な人に拾ってもらったと思えば、気が付けば檻の中。僕があまりにも美少年だからかは知らないけど、どうやら奴隷商に売られたようだった。


「__、___!」

 そして困ったことに、言葉がわからない。町で買い物をしていた時は、両親がほかの人たちと話していたから、あまり気にしていなかったけど、言葉が違うみたいだ。僕を奴隷商に売った人間は、僕の言葉がわかったのだろう。僕と普通に話していたし。


 今、目の前にいる男はここのトップだろう。周りと比べて高価そうな装いだ。そしてその隣にいる男、彼は買い手だろう。トップの男がへらへらと笑って何か言っている様子からすると。ぼーっと見ていると、買い手の方の男が僕を指さしていた。


 檻の生活1日目にして買われてしまい、豪邸についた。僕はまだ、小学生くらいの子供だから、自分好みに育てていくタイプの変態なのかな、と失礼なことを考えていた。そして屋敷に入ると、身なりをきれいに整えられた。さすが美少年だな、何着ても似合うと自画自賛していると、使用人に連れられパーティー会場のような部屋に連れていかれた。上座では僕を買った男と、僕と同じくらいの男の子が楽しそうに話していた。たくさんの贈り物に囲まれた整った顔立ちの男の子が、このパーティーの主役だろうか。


 僕を買った男に手招きされて傍によると、男の子の目の前に行くように背を押された。男の子は近くで見ると遠くで見ていた時より、さらに整った顔立ちだった。銀色の髪に金色の瞳、褐色肌の彼は、太陽のように明るい笑みを浮かべて僕に抱き着いてきた。相変らず言葉はわからないが、どうやら僕は彼への贈り物のようだ。僕はそのあと、また使用人に連れていかれ、お風呂に入れられた。人に洗ってもらうのは恥ずかしくて、涙を浮かべてしまったのは使用人と僕だけの秘密である。


 とてもいい香りを纏う僕は、部屋へ案内された。中は誰もいなくて、何だろうかと振り返ると、部屋の扉は閉じられていた。まさか、こんな幼い僕に夜を求めるわけないだろうと思っていたが、部屋で待っていたら明らかにお風呂上がりですといった感じの男の子が入ってきた。彼は僕に気が付くと太陽のような笑みを浮かべた。


「_、___。」

 そして僕の頭を撫でて、額にキスをされた。僕は状況を理解し、おうちに帰りたいと涙を流した。彼は驚いた表情を浮かべて、何もするつもりはないと言ったように手を挙げて、少し考える素振りを見せた。


【___、…あー。これでわかるか?】

 言葉がわかる嬉しさで頷くと、彼は良かったと言って話を続ける。


【オレの名前はザファル・ソレイユ。お前の名前は?】

【…シュエ・チエーロ、です。】

 わしわしと僕の頭を撫でると、ザファル様はなんで泣いているのか、家はどの辺りにあるのかと聞いてお話をたくさんしてくれた。結局はザファル様は僕の主様で、僕は元の家には帰れないらしい。ソレイユ家の現当主であるザファル様のお父様が、僕を買ってザファル様にプレゼントしたのでその好意を無碍にするわけにはいかない。僕を自由にすることはできないとはっきり言われてしまった。良かった、あいまいに希望を抱くよりはハッキリと言ってもらった方が、気持ちに整理がつくだろう。ザファル様の権力がもう少し強くなったら、僕の両親に僕が無事だということと、ささやかな贈り物をすると約束してくれた。


【それにしても妖精の言葉だとこの先不便だな。共通語が人間の言葉だから、覚えていこうな!】

 今話せる言葉も覚えるの大変だったのに、さらに覚えないといけなくなってしまった。前世で平仮名、カタカナ、漢字を覚えていて、今話している妖精の言葉、ここにさらに追加されるのか。頭がパンクしたらどうしよう…。悩んでいると、ザファル様が絵本を持ってベッドに寝っ転がった。


【少しずつ、ゆっくり覚えていけばいい。夜は俺が本を読んでやるよ!】

 ニッと笑って、ザファル様は僕に隣に来るように言う。僕が隣に行くと、優しい声で絵本を読んでくれて、僕はいつの間にか眠ってしまっていた。

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