■■■■〚執行人の仕事〛■■■■


 それから数時間、ココアとオーナーと私で作戦を練ってからさらに数時間。


 太陽は完全に沈んで街頭や建物の明かりだけがあたりを照らす夜の街。


「……ルシア、聞こえてる?」


 耳に着けたワイヤレスイヤホンからココアの声が聞こえる。


「ターゲットは高層マンションの二十八階にいる。……六分後に〚依頼主〛からターゲットに〚僕たちが狙っている〛っていう連絡がいくから、そろそろ動き出して。」


 そう、今回は〚依頼者〛の希望でターゲットがあらかじめ命を狙われていることを知ってる。


 私たちの〚仕事〛は大抵自分の命が狙われてるなんて考えられないほどの自分を過大評価した悪人だったから不意打ちで簡単に〚仕事〛を果たせたけど、今回そうはいかない。


 いままで以上にしっかり取り組まなきゃ!


 私はイヤホンから伸びた小型マイクに向かって「…行くよ!」っと言った。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 ターゲットがいるマンションに着くとマンションの出入り口に九人の大柄な大人が立っていた。


「…今、ちょうど例の電話がいったころだよね。…なのにこんなに早く護衛を集められるものなの?」


 私の質問にイヤホン越しにココアが答える。


『…いや、多分違うと思う。ターゲットは周りをどんどん切り捨てていくタイプの人間。今までに裏切ってきたかつての仲間に復讐されるのを恐れて普段から警備を固めてたって考える方が自然かな?』


 …なるほど。


「で、ココア。このままじゃ中に入れないんだけど…」


 大柄な大人とはいえ一対一なら多分勝てる。(そのための超々々々厳しい訓練ををオーナーにやらされてた。)


 でもさすがに相手が九人となるとさすがに難しいと思う。


『じゃあちょっと身を隠して待ってて…』


 ココアに言われた通り私が近くの建物の影に隠れると


 ピュンッ  ピュンッ  ピュンッ 


 といった音がして大柄な大人たちが次々と倒れていく。


 …これは、ココアのサイレンサー銃の発砲音かな?


 ココアに狙撃されて倒れた大人のところに近づくけど、狙撃されたはずなのに全然出血してないし、その付近には飴玉ぐらいの大きさの灰色の球体が転がっていた。


 これは…なんだ?


「ココア、これ何?初めて見たんだけど。」


『それは、昨日作った新しい武器。基本材質はゴムでつくったからエアーガンで頭に打ち込んでも死にはしない。』


 …死にはしないって本当!?


 触るとバスケットボールぐらい硬いんだけど!?

『…そりゃあもちろん、当たり所が悪ければ死ぬけど、〚掟〛があるし、そんなヘマはしない。』


「…そっか。」


 ココアの言う〚掟〛って言うのは私たちとオーナーの間で決めた十個のルールの事でそのうちの一つが〚自分の身に危険が及ぶ以外に選択肢が無い場合を除いて決してターゲット以外を殺してはいけない〛というもの。


 用はターゲットの警備兵がいても、警備兵が弱そうだったり(失礼かな?)裏道を通れば避けられるような位置にいれば殺してはいけないってこと。


「ターゲットは悪人だけど、その警備が悪人だとは限らないから…」とオーナーが言ったことでこれも〚掟〛に組み込まれたんだ。


『ルシア、いつまでもボーっと立ってないで早く向かって。」


「あっ! そうだね!!」


 私は警備の大人たちを踏まないようにマンションの中に侵入する。


「…ってここマンションなんだよね!!…一般の人も住んでるんじゃ…」


 全然気にしてなかったけど、マンションって言うのはもちろん普通の人も住む集合住宅、もしターゲットが廊下にいたりしたら〚仕事〛をするところを目撃されちゃう可能性があると思うんだけど…


『…その点は問題ないよ。マンションにはあらかじめ〚今晩は電気点検のため廊下が停電します。安全確保のためなるべく部屋からは出ないでください。〛っていうメッセージを電気会社の名前をかりてこのマンションの管理会社に送ってある。』


 …そんなところまで徹底してたの!?


『…とは言っても部屋から人が出てくる可能性もゼロじゃないからなるべく急いで」


「うん、わかった。」


 私がターゲットのいる部屋の前で身を隠すと部屋の中に金塊や小袋をアタッシュケースに詰める男がいた。


 …逃げるつもり?


『…ルシア、行ける?』


 イヤホンから聞こえるココアの問いかけに私は「うん。」と呟いた。


 男が部屋から出る瞬間、私は隠しナイフを取り出して男の前に立ちふさがる。


 男は私の服装を見ると急に笑い出した。


 私とココアが〚キラーラヴィッツ〛と呼ばれるのは私たちがウサギの耳の飾りがついたパーカーを着ているからとオーナーに言われたことがある。


 多分、私が〚キラーラヴィッツ〛の一人って言うのはターゲットも分かったはず。


「殺られる前に俺がお前をぶっ殺してやるよ!!」


 急に叫んでピストルを取り出したターゲット。


 私は銃口を向けられた瞬間地面をけり上げて男の背後まで飛ぶ!!


 このまえ「銃をよけるのは意外と簡単なのよ。見るのは銃口じゃなくて相手の指、撃たれるギリギリまで粘って指に力が入った瞬間に動くのよ。」とオーナーに言われたけど、失敗。


 銃口を向けられた時点で動いちゃった。


「…ガキのくせに小癪なマネを!!」


 ターゲットは振り返りもう一度私に発砲する。


 今はターゲットとの距離が近い、ターゲットは過去の経歴を見る限りピストルが得意ってことだった。


 となれば〚的〛との距離が近いシチュエーションで狙うのは………頭!!


 私はとっさの判断でしゃがみ込む。


 壁のついさっきまで私の頭があった高さにピストルの銃痕が残った。


 ターゲットは悔しそうに顔を歪めたがそのあとすぐにニヤリと笑った。


 それはそうだ、しゃがみ込んだ体制からじゃ反撃するどころか、ピストルを避けることだってできないんだから。


「これで………終わりだ………!!」


 ターゲットがピストルの引き金をひこうとした瞬間、ターゲットが何かに気付き窓の外を見て勝ち誇った顔が絶望したものに変わっていく。


 ………少し間をおいて   ピュンッ  と音がした後、ターゲットは倒れ、そのまま動かなくなった。

 

 

 

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