悪役令嬢に転生した私、史上最悪のバグゲーからの脱出を目指す~全てのバグを把握していても、主人公の猛追からは逃げられませんでした。
龍丼
第1話 悪役令嬢 マリーヤ・アルチーナ
それは、6歳のことだった。
ある夜に見た不思議な夢。
この私、国の公爵家の長女マリーヤにあるまじき粗末な、墓石のような建物の一室で、動く絵画のような何かに没頭する私。
よく見ると、描かれている絵はこの城で、画面の中には緑髪の魔女が私をそのまま大きくしたような女性を追い詰めている。
「はぁ、何度やってもこうしないとマリーヤルートが開かないの納得いかないな。まあセラティナの幸せ考えたらこれでいいんだけどさ……」
その後も私は不思議な夢を見続けた。
山奥の集落で、緑髪の魔女に重なる雰囲気の妹とともに蛇だの猪だのの肉を食べている私。
……この私に妹なんて、いたかしら。
大学進学が決まり上京した私。暇になるとこんなボウルに雑に材料を突っ込んで固めた雑プリンを作っていた。
もう少し、凝ったものにすればいいのに。
ああ、そうか。
夢に見た景色は、私の前世。
だとするならこれは、いよいよまずいことになった。
乙女ゲーム「バルフェリアン・メモリアル」。
あらすじだけ見れば割とよくあるもので、主人公の下級貴族の娘セラティナが、このバルフェリア王国の王宮で恋愛対象と大恋愛を繰り広げる。
しかし、その中でも厄介なのが家の権威を笠に着て執拗に嫌がらせをする王子の婚約者、マリーヤ。
彼女の妨害工作は熾烈を極める。王子に近づくためのお茶会の招待状が届かないようにするとか、一張羅が汚れて台無しになるような場所に誘い出すなどというのはまだかわいい方で、終盤になり、いよいよなりふりを構わなくなるマリーヤは、主人公に対し刺客を差し向けるわ、奴隷商人に売り飛ばそうとするわ、さらには
主人公を「王子をたぶらかし国の政治をわがものにせんとたくらむ魔女」として告発し、絞首刑台にあげてしまう。
……この時点で結構ひどい話だと思うのだけど、本当にひどいのはここからだ。
このゲームは元の世界では「史上最悪のバグゲー」として名高い。
それはなぜかといえば、バグの存在である。
1つ2つでは済まない。100を数えてまだ足らず、1000、10000にも届くほどのバグ。
服が変わるとか文字列がおかしくなるとかならまだいい方だ。
セーブデータ破壊、主人公がギロチン刑にもなっていないのに首が飛んでいく。
果ては本物の魔女になってほかの人物たちを呪殺したり、魔法でいたぶって遊びだす。
これすらもほんの一部。すべてをあげつらえばそれだけで長編小説に文字数が届いてしまうほどの理不尽さ。
まずは落ち着いて本当にここがそのゲームの世界で間違いないのか確認しなければならないが、仮に本当にゲームの世界なら準備しなければならないことがあまりにも多すぎる。
「お嬢様、本日付でお嬢様のレディースメイドに就任いたしました、カロリーヌです。」
東洋人のメイド、カロリーヌ。
ゲームが正規のルートを問題なくなぞるなら、彼女はマリーヤの最大クラスの破滅要因。
マリーヤは本編中で様々な悪行を働いている。
主人公への嫌がらせだけでなく、禁止薬物の取引で私腹を肥やし、権力争いの為に敵国ベルゼ帝国、異端の国サタールと内通し、更に取り巻きや王子の心を自身に留め置くため、魔女の業にまで手を出す。
その走狗として各地で暗躍させられるのがカロリーヌであり、主人公は最終局面に彼女を味方に引き入れ、マリーヤの悪行の証拠をつかんで「魔女はあなただ」と告発し返すことで自身の身の安全を回復するイベントがあるのだ。
だけど、今回はそんなことはさせられない。
「……お嬢様。手元のその『クソゲー』という単語は、まさか……
『この世界はゲーム』ということに、お嬢様も気づいた、ということでよろしいでしょうか?それにその文字は……
貴女まさか、前世における私の、いえ、僕の従妹、在智麻里で間違いないですか?」
「そうよ。不本意だけど、私もここに転生したみたい。」
カロリーヌが前世の私の従兄。つまり……
このゲームの開発者だという、衝撃の事実が明らかになってしまった。
「ひとまず、ゲーム終了となるお嬢様の20歳の誕生日まで、生き延びましょう。
そうすればきっと何かが変わるはずです。」
真っすぐに言い切るカロリーヌ。
今は彼女の提案をのむしか、なさそうだった。
私だって、2回連続10代のうちに死ぬようなことはしたくない。
なんとしてでも生き延びよう。
私たちの闘いの日々が、此処から始まった。
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