第2話 白虎隊からの要請 いよいよバトルです
「いた! 大きいのが1体、小さいのが30体くらいね」
「りょーかい」
俺とキキは京都の上空を真っ逆さまに落ちているところだった。目下では計31体のドラゴンを相手に戦う三人の白虎隊の姿がある。
それはまだ俺とキキが青龍隊キャンプ地で寝ていた時だ。狭間は常に漆黒の闇の中なので、朝だったのか夜だったのかはわからない。麒麟隊からの音声メッセージが届いたのだ。
「キョウトニテカイジュウルイノボツキャラハッセイ。シキュウオウエンニイカレタシ」
俺たちの任務は基本、こんなふうに麒麟隊からメッセージで通達される。拒否権はない。
「嘘だろ面倒くせえ……せめてあと5分……」
俺がベッドに戻ろうとするのを、キキが袖を引いて止めた。
「だめよこざい。任務放棄は厳罰よ? 私は行く。あの戦鎌の初お披露目なんだから!」
ぐい、とさらに強く袖を引かれ、俺はかがむ姿勢になった。「エクスキューショナ―(死刑執行人)」なだけあって、キキは腕力がある。耳元で「それに」と呟かれる。
「あなた、職業『天才』でしょう? 私たちがあなたを信用している理由がそれだけだってこと、忘れてないよね?」
「……わかってるよ」
狭間から三次元に行くには光を探す。ボツキャラが三次元に漏出すると現れる光だ。その光に手を触れることで、ボツキャラのいる場所にテレポートできる。今回はなぜか空中に飛ばされたが、理由はすぐにわかった。今回のボツキャラ・ドラゴンの群れは火を噴くだけでなく、空を飛んでいるのだ。
「まあ、この方が三次元に被害が出なくていいのよね」
「ンなこと言ってる場合じゃねえぞ。さっさとエマの野郎に気づいてもらわねえと!」
俺は空気を肺いっぱいに吸い込み、彼の名を叫んだ。
途端、落下し続ける俺の顔の前に、白のマントを纏ったエマの顔が一瞬で現れる。柊の「リンク」を使ったのだろう。彼の栗色の髪が風になびき、白い額があらわになる。エマは17歳男には似つかわない、軽やかで高めな声で
「わあ、青龍隊のお二人! 嬉しいなあ、会うのは何か月ぶり?」
と訊ねてきた。大きな瞳をぱちぱちとさせている。
「そんなことどうでもいいだろ! 早く触れやがれ!」
「はーいはい」
エマが俺とキキの体に触れる。その瞬間、俺たちの落下が止まった。これがエマの職業・能力である「スカイハイ」である。自分及び触れたものが、空中で重力に影響されず自由に動ける。要は空を歩いたり飛んだりできるわけだ。ちなみに、先ほどエマが一瞬で現れたのは同じ白虎隊隊員・柊の「リンク」によるものだが、こちらは空間と空間の距離をゼロにすることができる。瞬間移動に使われることが多い。
「お二人が来てくれるなら百人力ですね~! 古財さんの乱舞がまた見れるなんて楽しみです!」
エマは飛び跳ねて俺たちの周りを縦に回る。
「私もいるんだけど」
「あ、もちろんキキちゃんも期待してるよ! 今回は鎌? かっこいいなあ!」
キキは満足そうに笑み、鎌を自慢し始めようとしたので、
「おい、早く行こうぜ。今、実質柊一人でさばいてるんだろ?」
と制する。普段はキキが言いそうなセリフだが、武器のこととなると、彼女は周りや状況のことがすっかりと意識外になってしまう。
「そうでした! ひー君に怒られちゃう。こっちです」
エマに続いて、俺たち三人は先ほど見たドラゴンの群れに向かう。ドラゴンは黒い体躯をもち、口から青い火炎を放射しながら滑空していた。その中心に、ひときわでかいやつがいる。
「あいつは俺がやる。キキは白虎隊と一緒に周りの奴らを削除しろ」
「わかった」
「二分で終わらせるぞ。俺はすぐ帰って寝る」
その言葉を残し、俺は空を蹴って一気に群れの中心に向かう。その途中、俺の進路を雑魚ドラゴンが横切る。マントの下から先日再生した元包丁の片手剣を取り出し、一気に左下からかきあげる。雑魚は斜めに真っ二つになり、文字となって消えていった。それを背後に、ボスへ向かう。
「おい親玉! かち割ってやるぜ!」
片手剣をしまい、いつも使い慣れている日本刀を取り出す。声に反応した漆黒のドラゴンがこちらに炎を吹く。それを左に躱し、相手の懐にもぐりこむ。腹部に着地し、素早く日本刀を逆手に持ち替え突き刺す。硬い。刀身の三分の一ほどしか刺さっていない。この日本刀が半分も刺さらないのは久しぶりだった。
ここで俺の「設定」について説明しておこう。俺はボツキャラになった身だが、職業「天才」として生み出された。ゆえに戦闘においても誰かに引けを取ったことは無い。設定は絶対なのだ。
さらに能力が二つ付与されている。「再生」と「改変」だ。
再生、とは自分の手で破壊したものをもう一度生み出し、自在に操れるというものだ。ただし、再生したものが他者に破壊された際は二度とそれを再生できない。この日本刀も、以前削除した「日本一の剣豪」のボツキャラが使っていたものだ。今までの中で一番の強度だったため気に入った。
次に改変とは、再生する時にのみ使える能力だ。再生する対象の形や性質をいじることができる。先日、包丁の刃渡りを伸ばしたのがこの改変能力だ。
現在はこの元包丁と日本刀を使っている。中途半端な武器を多数持っていても仕方ないので、この二本に絞った。
ドラゴンの腹部を蹴り、距離を取る。同時に相手の尾が鞭のように飛んでくる。それを刀で受け流し、今度は奴の頭に向かう。生物は頭部か心臓をつぶされれば大概死ぬ。それはボツキャラも同じだ。噴出される炎を避けるため、一度上方に高く飛んでから、一気に奴の頭頂部に急降下。その勢いを利用して刀を突き立てる。が、
「……いい設定を貰ったな」
頭は腹部以上の硬さだった。数センチ程度の深さしか刺さらない。脳にはほとんどダメージを与えられていないだろう。ドラゴンが頭を横に振り、飛ばされる。刀から手が離れ、ドラゴンの頭部に刺さったままになる。すぐに体勢を直し、もう一度奴の顔面に一直線で飛ぶ。チャンスは一瞬だ。ドラゴンに急接近していく。奴が口を開いた。すぐに炎が出される。
その直前、俺は片手剣を奴の口腔内に刺した。表面が硬くとも、口腔内は柔らかかったようだ。片手剣はそのままの勢いでドラゴンを貫き、奴の後頭部からその先端が飛び出した。ドラゴンが悲鳴を上げる。片手剣を抜くと、ドラゴンの目から光が消えていき、その体は動きを停止する。奴が消えてしまう前に頭部の日本刀を回収した刹那、ドラゴンの体が落下していった。
「どういうことだ!?」
ボツキャラが死ぬとその体は文字に変わり消滅するはずだ。仕留めそこなったか?
「ちょっとこざい! それじゃ地上に被害が出るわ!」
近くで雑魚ドラゴンの首を刈り飛ばしたキキが叫ぶ。瞬時にその巨体に向かった時、その腹部が裂けた。
「お?」
ドラゴンの腹から、さらにでかい、紫のドラゴンが出てきたのである。それと同時に、黒い方のドラゴンは文字に変わっていく。
「どういう設定だこりゃ」
新しく生み出た紫のドラゴンがこっちに突進してくる。その瞬間、
「死」
どこかでカンッカラカラカラ……と音がし、目の前まで迫っていた紫ドラゴンが内部から爆ぜた。粉々になった肉片が四方で文字に変わり消滅していく。
「大丈夫? 隊長」
声の主の方に向き直る。
「遅えよ、ピエトロ」
金髪に澄んだ青い目を持った最低な男、「遊び人」ピエトロだった。
キキが小さな体で攻撃をかわしつつ、的確に相手の首を飛ばす。桐ケ谷が白虎隊の二人に無線で指揮を飛ばし、柊のリンクで瞬間移動を繰り返しながらエマ・柊コンビが敵を挟み撃ちにしていく。残った小さなドラゴンはもう数体。じき終るだろう。
「それでですね、その家出っこちゃん、急に怒って回し蹴りしてきたんですよ? あり得なくないですか? このご尊顔に蹴り入れられるなんてどうかしてるでしょう」
「どうかしてるのはおまえだ。削除の任務にいったんじゃないのか。すぐナンパしやがって」
俺とピエトロは他の四人を手伝って雑魚ドラゴンの削除に加勢していた。というのに、構わずピエトロは話しかけてくる。
「ナンパじゃありません。あれは神の思し召し。いわば必然の行動です。ナンパなんていう低俗なものとは違います」
「低俗が服着て歩いてるみたいな奴がよく言うぜ」
「服は着るでしょう。私の裸体なんて女性には耐えられないでしょうから」
「そういう意味じゃねえよ」
最後の一体の背中に刀を突き刺し、尾まで切り裂く。
「終了ですね。古財さん、応援ありがとうございました!」
指揮をしていた桐ケ谷が飛んできてお辞儀をする。
「あの、本当に格好良かったです。良ければこの後お礼させてください!」
「いや、悪いが俺は帰って寝る」
「あの~、私たちもいたんですけど?」
ピエトロが割って入ってくるが桐ケ谷は無視。
「それで、あの、できれば白虎隊キャンプ地に、ご招待、とか……」
「隊長」
柊が桐ケ谷の肩を叩く。ちなみに柊は艶やかな黒髪で鼻筋の通った王道の王子様顔なのだが、エマと二人でいると悪ノリしてよく問題行動を起こしている。
最近だと、俺が任務から帰ろうとしていたら突然瞬間移動で清水の舞台からリアルに飛ばさせられた。エマのスカイハイで地上に激突はしなかったものの、肝を冷やした。
「まだ終わっていない。麒麟隊から『モウイッタイイル』とメッセージが来た」
「え? でも、ドラゴンは全部消したはずじゃない?」
「別の作品のボツキャラが同時発生しているのかも。今エマが探しに行って」
「見つけたよー!」
柊の頭にエマが降ってくる。柊が呻いて崩れ落ちた。
「でも倒れてるんだ。ほら、協力的な人なら狭間に入れるか試すべきって堅海さんの研究が出てたでしょ? だから協力的な人か確認した方が良いと思うんだけど。今のところ攻撃されてないし」
「どけエマ。大体、攻撃されてないのはそいつが倒れてるからだろ」
「でも行って確かめないとね。場所を教えて?」
柊からは下りず、桐ケ谷に「りょーかい」とエマはにこやかに返事した。
「青龍隊は帰るぞ。もう眠たい」
と、これ以上巻き込まれるのはごめんだと思い言ったところ、
「だめよ。最後まで油断しちゃいけない。そいつが凶暴なボツキャラの可能性もあるのよ?」
キキに鋭い目で見上げられた。冷たい脅迫のこもったその目に、俺は口を閉ざした。
倒れているボツキャラは少年だった。日本人の子供という設定なのだろう。詰襟の学生服を身に付けている。ちなみに、ボツキャラである我々は、ボツキャラと三次元の人間とを見た目で判別できる。だからエマに教えられずとも、少年に気が付いた。
「誰が起こす?」
エマはチラリと俺の方を見た。
「そりゃ、青龍隊隊長様しかいないでしょ。なんせ彼、『天才』なんだから」
柊が答える。出た。悪ノリだ。
しかし、まあ柊の言う通りな上に特に問題もないので、俺が少年の肩を叩いた。少年は少し呻いた後、顔を上げた。色素の薄い、ほぼ茶色の瞳だった。しばしぼんやりと俺を眺めた後、彼は一言、
「かっこいい」
とつぶやいた。なんて?
あとがき
少年や少女を拾う、そんな二次元にはロマンがありますよね。私もショタ拾いたいです。どこかにいませんか?
☆や作品のフォローをしていただけると狂喜乱舞します。よろしくお願いします!
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