第四話

 私の名前は笹原京香(ささはらきょうか)。今年21歳になる大学生だ。趣味はゲームやアニメ鑑賞、漫画を読んだりなど好きなもので溢れかえっている。最近はまっているものは恋愛シュミレーションゲームで、私はすっかりハマってしまいバイト代をつぎ込んでしまうほどだ。

 そんな私の最近の悩みは、バイト代のほとんどをこのゲームに使っているため、お金が足りなくなってしまい、家賃を滞納していることである。今はネットカフェで寝泊まりをしているがこの生活をいつまで続けることができるか分からない。両親に相談しようにもどちらも海外出張中のため連絡がつかないし、友人はみんな社会人なので忙しくて相談できない状態が続いている。まあ、友達が少ないって言うのもあるんだけどね……。

 さすがにこのままじゃマズイと思った私は何か解決策はないのか調べるため、アルバイト情報サイトを開いた。すると『短期・高収入!誰でも稼げる!』と書かれた広告を見つけた。興味本位でそのページを開いてみると、内容は求人募集ではなくイベントスタッフのようで、給料は月給80万、賞与あり。仕事の内容は着ぐるみを着て風船を配ったり、コスプレをして写真を撮ったりするだけの簡単なものらしいが、どうせ怪しい仕事を紹介されるだけだと思い無視することにした。

 他の求職情報を見ているときに偶然目に付いたのが、『夢の国で働きませんか?』と言う求人広告だ。なんでも、最近オープンしたテーマパークのスタッフを募集しているらしく、時給2000円以上、週休2日制、有給有りと書かれている。しかも制服貸与ときたらやるしかないと思った。すぐに電話して詳しい内容を聞くことにした。面接試験は来週の日曜日とのことだったので、履歴書を持って会場に向かうことに決め、この日は眠りについた。

 次の日の朝、目が覚めて気分転換に朝食を作っている時に重大な事実に気付いてしまった。

私は料理が全くできなかったのである。仕方なく近くのコンビニに行ってパンを購入し、もぐもぐと食べながら家を出た。今日は大学の入学式だが、別にサークルに入るわけでもないから行く必要もない。講義もないし、暇なときはネトゲをやってれば時間は過ぎていくだろう。そう思いながら歩いていると、後ろから声をかけられた。振り返るとそこにはスーツを着た女性が立っていた。

「あなた、笹原さん?」

 いきなり名前を言われて戸惑ったが、落ち着いてから返答する。

「はい、そうですけど……」

「よかった。迷わずに着けたみたい」

「あの、どちら様ですか……?」

 私がそう聞くと女性は少し困った顔をしたが、仕方ないと呟いてから自己紹介を始めた。

「申し遅れました。私は今回、テーマパークで働くにあたっての説明を担当することになった者です」

 そう言って名刺を差し出してきたので受け取ると、「株式会社ドリームプラネット代表取締役、神楽坂紗希(かぐらざかさき)」と書かれている。テーマパークの責任者みたいな人なのかと思っていると彼女は続けて話し始めた。

「では、早速説明を始めさせていただきます。まず初めに、今回の採用試験に合格したことをお伝えします。これで晴れて笹原さんはこの会社の社員となり、より一層頑張っていただくことになります」

「合格!?」

 驚きすぎて思わず叫んでしまった。正直落ちると思っていたからこんなにあっさり決まるとは思っていなかった。まさか、社員として働けるなんて夢にも思ってなかったけど。

「はい。ただし、いくつか注意事項があるのでこちらをお読みください」

 そう言われると一枚の紙を手渡された。中身を確認すると、何枚かの写真と資料らしきものが挟まれており、それを順番に見ていくことに。最初の写真にはキャラクターのコスチュームと思われる服が写っており、その下には身長や体重などの数値が書かれている。よく見ると顔のパーツなど細かいところまで書き込まれていた。

 次に確認したのは職場環境についてだ。仕事の内容についてはまだ詳しく書かれていなかったが、勤務地が自宅から遠いところにあるということだけは分かった。また、有給休暇は3日取れるので、もし仕事に慣れてきたら好きなタイミングで使えるとのことだ。そして、給与面についてもしっかり記載されている。

 最後に書かれていたことは『福利厚生』の項目だった。ここでは月に1回必ず休日が与えられることが書かれており、他には社割制度や交通費支給なども書かれている。

 ざっと目を通してみると特に問題はなかったのだが、一つだけ気になることがあった。それは、退職金や遺族年金についてだ。この会社は退職金を支払わない代わりに、従業員が亡くなった場合は生命保険に加入しているので死亡保険金は支払われるとのことだった。この内容を見れば分かる通り、この会社はかなりブラック企業だと思う。しかし、今までバイトを掛け持ちでやっていた私にとっては好条件だし、何よりも給料がいい。とりあえず、私はこの契約書にサインした。

「ありがとうございます。では、入社の手続きなどはすべて終了いたしましたので、これからよろしくお願い致しますね。詳しい仕事内容は追って連絡いたしますので、それまでに準備をしといていただいても構いませんよ」

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