いつもより少しだけ早く目が覚める
一ノ瀬 彩音
第1話 壱
冬の朝は、いつもより少しだけ早く目が覚める
ベッドから起き上がってカーテンを開けると、窓の外には白い雪が積もっていた
空は青く澄み渡り、雲一つない快晴だ
昨夜降った雪は、まだ誰も踏んでいない新雪だった
私はベランダに出て、裸足のまま外に出る
冷たく湿った空気の中、真っ白な雪の上に立つと、まるで自分がこの世界にたった一人きりになったような錯覚を覚える
風もなく静かなその世界の中で、私は自分の足跡を一つ一つ丁寧につけていく
やがて私の足跡は、雪の上にまっすぐに伸びて、そして消えてしまう
私の存在だけが、ここに確かにあったという証を残して……
ふいに強い風が吹いて、雪の結晶たちが舞い上がる
それは一瞬にして溶けてなくなり、後にはただ青空が広がるばかりだ……ああ、なんて美しいんだろう
こんなにも美しく、清らかな景色なのに どうして人は、それを汚してしまうのか
なぜ、同じ過ちを繰り返すのか 私がこうして生きていることさえも、罪深いことに思えてくる
そんな風に感じた時、ふと頭の中に声が響いた ──あなたは、そこにいますか?
そう問いかけられた気がして、私は振り返る しかしそこには誰もいなかった
ただ青い空が広がっているだけだ でも確かに誰かの声を聞いたはずなのだ
それが誰なのか思い出せないまま、私は部屋に戻る
キッチンでお湯を沸かし、紅茶を入れる準備をする
戸棚の奥にしまってある、特別な茶葉を取り出す
この香りに包まれているだけで、心が落ち着くのだ
ポットに入れたお湯を捨て、茶葉を入れたティーカップに注ぐ
立ち上る芳しい香りと共に、優しい気持ちになる……さあ、そろそろ朝食の準備をしなくては
今日は何を作ればいいだろう 冷蔵庫の中には何があっただろうか
買い物に行く時間はあるだろうか そうだ、あの人に連絡をしておかなければ 今日はどんな服を着ようか
今年の流行色はどれだったっけ そんなことを考えながら、私は朝の支度を始める
私の一日が始まる あなたの一日が始まりますように……
いつもより少しだけ早く目が覚める 一ノ瀬 彩音 @takutaku2019
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます