第100話 ワーテルランド動乱⑥

「ワーテルランドは、ワーテルランドの者で守るべきだ!」


「そうだ、そうだ!」


「では、ボルタリア軍と戦って、追い出してくれたまえ」


「ぐっ、と、ともに戦ってくれるならば」


「それは、お断りする。我々とボルタリアは盟友めいゆうなのだ。やるなら、独力でお願いする。そして、それが出来るなら貴殿きでんをワーテルランドの王として認めよう」


「ぐっ。それは……」


「フハハハ、出来ぬのか? では、仕方ないな」


「だが、王はせめて、ワーテルランドの民に……」


「ならば、君が成りたまえ、私と、ボルタリア王国は、支持はしないがな」


「うぬぬぬ」


 まあ、いっこうに進まない、話し合い。



 その中心は、クロヴィス公バルデヤフさんに、クワトワ公エンラート3世さん。


 バルデヤフさんの主張は、ワーテルランド王国はワーテルランドの者で統治したいと。


 エンラート3世さんは、そこには特にはこだわりなく、自分の領土を拡大したいと言う。なので、クラーコフ公国の領土を欲しいようだった。そして、ボルタリア国王ヴァーツラフ3世の即位に賛成。


 理由は、ワーテルランドの復興には他国の力を借りてでも、良いという考えらしい。



 僕の考えは、ウルシュ大王国や、ローシュ公国の防波堤ぼうはていとして、ワーテルランド王国を利用したいと。それには、王は誰でも良いが。ヴェーラフツ3世陛下が国王の方が、色々とやりやすい。という感じだった。当たり前だけど、ワーテルランド王国の事を思ってとかは、まるっきりない。マインハウス神聖国のこと、ボルタリア王国のことを考えるだけで、精一杯なのだ。



 だから、僕は最初に一言。


「ワーテルランド王国国王には、バラミュル2世陛下の孫であらせられる、ヴェーラフツ3世陛下はいかがでしょう」


 と言ったきり、黙っていた。


 それに対して、エンラート3世さんは賛成。バルデヤフさんは反対。


 さらに、エンラート3世は、クラーコフ=クワトワ同盟を盾に。クラーコフ公国の宰相として、ヴェーラフツ3世陛下をサポートする事を主張。まあ、実質的なクラーコフ公国の支配だろうな〜。まあ、僕には関係ない。


 だが、もちろんバルデヤフさんは反対。自分が、クラーコフ公国の統治と、ワーテルランド王国国王に成ると主張したのだった。


 それを鼻で笑う、エンラート3世さん。しかし、そのエンラート3世さんも余裕がない。バラミュル2世陛下の葬儀が終わり、タヴォル公コルト1世が、再び動き出したとの情報が入った。これからは、妥協点だきょうてんを探す話し合いになるだろう。


 とにかく、早く終わらせて欲しいものだ。



 そして、数日が過ぎた。エンラート3世さんが、かなりの妥協をしめすと、会議は終わりに近づきつつあった。


「では、クラーコフ公国の北部は、貴殿が領有すればよかろう。ただし、貴殿が男子を残さず死ねば、我が息子エンラート4世が領有する。これでどうだ?」


「ううむ。領土に関しては、ありがたい。だが、国王に関してだが……」


「まだ、言うか?」


「いや、違う。ヴェーラフツ3世のワーテルランド国王即位に関しては、認めよう。だが、今後もボルタリア王家が継続的に国王に成ることは反対だ」


「分かった。では、ヴェーラフツ3世陛下が亡くなられた時は、次代の国王は、再び話し合いで決めるという事で、どうだろう?」


「それで、構わない」


 というわけで、話はまとまった。



 そして、


「我々は、ワーテルランドの貴族連合を抜けさしてもらいます。今後はボルタリア王国の領内諸侯となる予定です」


 と、ウリンスク諸侯の方々が宣言する。それに対して、バルデヤフさんも、エンラート3世さんも、顔をしかめるが、僕達の顔を見て、何も言う事は、なかった。



 ワーテルランド国王は、ヴェーラフツ3世陛下。そして、南北に細長いクラーコフ公国は、南北に分けられ、北をバルデヤフさんが、南をエンラート3世さんが引き継ぐ事となった。


 だが、これは、一部諸侯から強い反発をまねき、エンラート3世の勢力の分裂をまねく事となった。この分裂した勢力は、ボルタリア王国派になる。最初にいた、ワルツロフ司教ルーミカさんをはじめとした諸侯であった。人数増えたけど、まあ、小勢力だ。



 これで、ワーテルランド王国は、大きな勢力としては、北部にクロヴィス公バルデヤフさんが、南西部に僕達ボルタリア王国、南部にクワトワ公エンラート3世さんが、南東部にタヴォル公コルト1世、そして、北東部にルーシュ公国の勢力という感じになった。


 一応国王はいるが、分裂状態は変わらない。





 その後、ワーテルランド王国国王即位式が簡易的かんいてきに行われたのだが、バルデヤフさんも、エンラート3世さんも、さっさと帰ってしまい、参加者は、ワルツロフ司教ルーミカさん達の少数の諸侯のみだった。しかも、国王本人がいないし。



「ここに、ワーテルランド王国国王として、ヴェーラフツ3世陛下の即位を、宣言致します」


 代理で、レイチェルさんが王冠を受け取る。そして、レイチェルさんが、王冠をささげると大きな拍手が起こる。


 そして、その王冠は、玉座の上に置かれ、保管される事となった。



「陛下には、成人されたら是非、ワーテルランドに来て頂き、この王冠をかぶって頂きたいと思います」


「ええ、そうですね。そうなるように、願っております」


 ルーミカさんの言葉に、レイチェルさんも、前向きに応える。


 さて、これで帰ろう。と思った時だった。





「申し上げます! ウルシュ大王国が、我が国に攻め込んで来ました!」


 となった。


「ワーテルランドの諸侯に、急ぎ伝令でんれいを送ります」


 と、ルーミカさんが出て行ったのだが、数日後、真っ青な顔をして現れて。


「皆、出兵出来ないとの事です」


「えっ!」



 バルデヤフさんは、ローシュ公国から侵攻を受け、エンラート3世さんは、コンラート1世さんと戦闘中という感じだった。



「おそらく、ローシュ公国は、ウルシュ大王国とタイミングを合わせたのでしょう。それに、ウルシュ大王国の侵攻も、こちらの事情を把握はあくした上でしょう」


 との事だった。どうもウルシュ大王国は、旅の商人から情報を仕入れているそうだ。それで、バラミュル2世陛下の暗殺の情報がようやく伝わって。今のタイミングで攻め込んで来たのだろう。



「で、ウルシュ大王国軍の数は?」


「えっ、兵力ですか? 報告では、6千ほどだそうですが」


「そう。じゃあ戦おうか」


「えっ? 誰がですか?」


「ボルタリア王国が」


「はあ?」



 ルーミカさんは、何を言ってんだこの人? という顔をしていた。それも当然だった。ボルタリア王国にとって、何の特もないのだ。むしろ、負けて多数の死者を出したら大変な事だった。だけど。


「まあ、適当にあしらってくるよ」


「はあ、かしこまりました」


 というわけで、僕はウルシュ大王国軍に向けて進軍を開始した。


 ウリンスク諸侯と、ルーミカさん達には、レイチェルさんを守る為に、残ってもらった。



「グーテル様、なぜ我々が戦うのですか?」


「いや、ウルシュ大王国の戦い方を見たくてね」


「えっ、グーテル様が、戦うとおっしゃったんですか?」


「そうだよ」


「そうですか……」


「こちらは、24000。敵は6000。まあ、負ける事はないよ」


「そうですかね?」


 ちょっと呆れたような、ガルプハルトの声を聞きつつ。ウルシュ大王国軍が布陣しているという、ワーテルランド東部の草原に向かう。馬だらけのウルシュ大王国軍は、こういった草原に布陣する事が多いのだそうだ。



 僕は、進軍しつつ、ボルタリア軍の再編成をしていた。皆には申し訳ないが、武芸ぶげいひいでた、一部の諸侯の皆さんを除いて諸侯の皆さんは不参加。レイチェルさんと、共にクラーコフに待機してもらっている。


 あっ、ちなみに、トンダルもクラーコフで、元王妃であったマルグリットさんと話している。何か、ちょっと揉めていた。



「いや〜、豪気ごうきですな。グーテルハウゼン閣下は」


 と、デコイランさんが、馬を寄せてくる。全身に重そうな鎧をつけ、長槍を持っている。結構な良い年齢だが、戦いたいのだそうだ。貴方のほうが豪気でしょ?


「そうですかね?」


「いやいや、他国の為に戦い、さらに強敵と聞く、ウルシュ大王国を相手にされるとは。久々に痛快です。ワハハハ!」


「そうですか」



 ウルシュ大王国軍の戦い方は、足の速い馬で動きまわり、弓騎兵でこちらの足を止め、重騎兵でとどめを刺す。これが基本だ。


 だったら、足の速い馬の利点を消し、弓騎兵の攻撃を徹底的に防御すれば良いのだ。そして、重騎兵同士の正面からのぶつかり合いでは、こちらの方が、圧倒的に強い。それは、事実だった。


 その為に、軍の再編成を行いつつ進軍する。重騎兵、重装歩兵、歩兵に分けて集め、その指揮官を決める。まあ、こんな感じかな?



 ウルシュ大王国軍に近づき、お互い布陣する。相手は、4000ほどの軽騎兵と、2000ほどの弓騎兵だった。


 弓騎兵は左右に別れ、中央に軽騎兵が布陣する。


 こちらも、中央に重騎兵を集め、その後方に重装歩兵を布陣させる。



「フラー!」


 ウルシュ大王国軍の中央の軽騎兵が突撃を開始する。確かに速い。


「突撃〜!」


 こちらも、ガルプハルトの大音声だいおんじょうで、突撃を開始する。重い地響きが、戦場に鳴り響く。



 そして、両軍がぶつかる。そう思った時だった。ウルシュ大王国軍の軽騎兵の前の方の馬が転び、そして、すぐに立ち上がると、反転し逃げ始めた。


 わざとらしいね~。


 一瞬、呆気あっけにとられたガルプハルト達だったが。


「追撃する!」


 あわてて、軽騎兵を追うが馬のスピードが違う。あっという間に、視界の外に消えた。



 だが、斥候せっこうの情報によると、一日ほどかかる距離に布陣して、こちらを待っているようだった。まあ、せっかくのお誘いだ。乗ってあげないとね。


「では、出発〜」


 そして、両軍向かい合うと、また、ウルシュ大王国軍は突撃を開始して、同じように逃げ去る。



 ウルシュ大王国軍はこれを繰り返し、ポーク川という川を渡り、森の中へと逃げ込んだ。


 さてと、そろそろかな?



「申し訳ないけど、ウルシュ大王国軍の正確な数を調べて来て」


「はい、かしこまりました」


 僕は、オーソンさんの手の者を呼んで、ウルシュ大王国軍の事を調べてもらう事にした。そろそろ、向こうも僕達を無事誘い込んで、戦う気になっただろう。

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