第99話 ワーテルランド動乱⑤

 ワーテルランド王国国王バラミュル2世の国葬こくそうの知らせが、ワーテルランド王国に広がると、護衛騎士を引き連れたワーテルランドの諸侯が集まってきた。


 クロヴィス公バルデヤフさんに、クワトワ公エンラート3世さんに、その他、諸々もろもろ。そして、当然来ない諸侯もいたり、さらに、葬儀の留守を狙って、挙兵する者など。様々だった。


 それでも、バラミュルさんはしたわれていたのか、大勢が葬儀に集まって来ていた。当然、クラーコフの街もにぎわいが戻り、商店も通常営業になっていた。



 となればだ。


「グーテル様〜。さすがにまずいっすよ。出歩くのは」


「大丈夫、大丈夫。ねっ、ガルプハルト」


「いやっ、さすがに、それは……」


 と言いつつ、グーテルと共に歩く、アンディとガルプハルト。



 僕は屋台で買ったポンチキを片手に、クラーコフの街中を歩く。


 ポンチキとは、ワーテルランドの名物。中にジャムの入ったドーナツだった。


「うん、美味しい。フルーラにも後で、お土産で買っておいてあげよう。甘いもの好きだからね~」


「グーテル様、怒られるっすよ、隊長に」


「いやっ、甘いものにつられて、忘れるかもしれないぞ」


「ああ、なるほどね~。その手があったか」



 僕達は、クラーコフの中央広場にたどり着く、かなり大きな広場で縦横200mある正方形の広場だった。広場には、人々が集まりいこいの場になっていた。当然、屋台があり、周囲には土産物屋などの商店や、酒場などの飲食店が並んでいた。


「あそこにしよ」


 僕は、そう言うと、一軒の店に向かう。そして、席に座ると。


「ビールちょうだい! 出来れば冷えたやつね」


「ハハハハハ、冷えてるよ。ボルタリアの人かね?」


「正解」


 ワーテルランドは、ボルタリア、マインハウスに並ぶビール消費国だった。他にも、ウォッカとか、蜂蜜酒はちみつしゅとか、シードルとか有名だが。残念ながら寒すぎてワインの生産量が少ない。ちなみに、アルコール消費量でもトップクラスだった。理由は、寒いから。



 だけど今は夏。それなりにワーテルランドも暖かかった。そこで、冷えたビールを流し込む。そして、


「おかわり!」


「さすが、ボルタリアの人だね~。良い飲みっぷりだ」


 二杯目のビールが置かれ、さらに、ワーテルランドの名物料理を頼む。



 僕は、二杯目のビールを飲みつつ、バラミュルさんが暗殺された状況を話す。


「そうですか。う〜ん?」


 ガルプハルトがうなる。アンディは、聞いていないふりして、周囲を見回していた。


「正直、何が起きたか分かりませんが……」


 ガルプハルトが、降参するように手を挙げる。


「いや、僕も分からないよ。だけど、少なくとも、ドーソン男爵は、本当にバラミュルさんに窮状きゅうじょうを訴えるのが目的だったんだと思うよ」


「なるほど」


「となると、その時、一緒にいたヤコブさんに別の目的があった。もしくは、廃屋はいおくに別の誰かがいたのか。そこが、分からない」


「そうなんですね」


 ガルプハルトは、必死に僕の話を聞いていた。その時、アンディが、口をはさむ。


「じゃあ、そのヤコブって奴、何者なにものなんっすか?」


「そう、そこなんだよ。アンディ君。さっぱり、分からない。オーソンさんの配下に調べてもらったんだけど。謎? どこから来たのか? どこの出身なのか? ヤコブは本名なのか? まあ、綺麗なワーテルランドの言葉をしゃべっていたみたいだけどね」


「そうっすか。オーソンさんがわからないんじゃ、お手上げっすね」


「うん」



 まあ、そんな事を話しているうちに、料理が出てきた。


「はい、フラキね~」


 フラキは、臓物ぞうもつという意味だそうだ。牛の胃を野菜スープに入れて、スパイスを入れたもののようだった。


「うまい、実にうまい。これは、うまいですな~」


 ガルプハルトが、すごい勢いで食べる。あっという間に無くなった。ので、僕のを半分入れる。アンディも同じく。


 いやっ、美味しいんだけど、臓物は食べ慣れていないので、ちょっとね。臭みもないし、スープは美味しい。本当だよ! 本当だからね!



「はい、ピエロギね」


「ピエロギ?」


 中にはひき肉が入っていて、外にはモッチモッチの小麦粉で練られた厚手あつでの皮。それをでて薄味のスープに浸かっていた。その上に少量のサワークリーム。


「うん、美味しいね~」


「はい、もちもちして食べごたえもあります」


「うん、旨いっす」


 茹でられた小麦粉の皮っていうのが、食感が良く。中もしっかり味のついたひき肉が主張し、美味しかった。


 うん、マスターに言って作って貰おう。



 これは、現在ローシュ公国になっている、ウルシュ大王国によって滅ぼされた国から、ヒアキントゥスさんという修道士さんによって伝えられたそうだ。なので、ヒアキントゥスさんは、ピエロギの守護聖人なのだそうだ。面白いね~。



 まだまだ食べるよ~。さて、次は何だろ?


「ズラズィ・ザヴィヤネとゴウォンプキね」


 ゴウォンプキは、ロールキャベツ。ズラズィ・ザヴィヤネは、逆に薄切りの牛肉で野菜を包んで煮た料理だった。一皿ずつ頼み3人で分ける。


 ゴウォンプキは、豚のひき肉に、玉ねぎ、そして大麦を混ぜ、それをキャベツに包み茹でられ、トマトソースとサワークリームのソースをかけたものだった。


「ちょっと変わっているけど、美味しいね〜」


「美味しいっす」


 僕と、アンディは気に入った。だが、ガルプハルトは、


「やっぱり、サワークリームっていうのが……」


 そう、ワーテルランドの料理は、結構サワークリームが入っている。ガルプハルトは、ちょっと苦手なようだった。



 続いての、ズラズィ・ザヴィヤネは、今度は酢漬けにした野菜。ピクルスを薄切りの牛肉で巻いて焼いた後、濃厚なソースをかけた料理。こちらはサワークリーム入っていないからか。


「うん、これは旨い! や〜、ビールが進む。うん、旨い!」


 いやっ、中の野菜は酸っぱいのに、どう違うのだろ?


 まあ、確かに美味しかった。この二つは、ボリューミーで、僕はお腹いっぱいになってしまった。



 その後も、ガルプハルトは数品食べたが、僕とアンディは、ガルプハルトの皿に添えられたカプスタ・クファショナをつまむ。


 カプスタ・クファショナは、要するにザワークラウト。酢漬けのキャベツだった。


 そして、ひたすらビールを飲む。



 その後は、もう少し飲んで。ここのお店は、デザートも有名なようで、結構頼んでいる人がいた。



「そう言えば、お土産お願いね~」


「かしこまりました」


 僕達は、お土産を片手にクラーコフ城へと戻る。



「グーテル様! あれほど、出かけては危ないと言ったではありませんか~!」


 部屋に戻ると、凄い剣幕けんまくでフルーラが怒っていた。ガルプハルトは、いつの間にか消えていた。


「はい、フルーラ。お土産」


「何ですか?」


「甘いケーキだって」


「ケーキですか〜」


「食べようよ」


「えっ、よろしいのですか?」


「よろしいも何も。フルーラの為に買って来たんだから」


「ありがとうございます。グーテル様」


 そう言って、お土産の袋をのぞき込むフルーラ。そして、


「では、ハーブティーでも用意して貰いましょう」


 そう言って、ウキウキと出て行くフルーラ。ふふふ、ちょろいな。


「隊長も単純っすね~。ですが、さすがグーテル様です」


「うん」


 その後は、僕と、フルーラと、アンディの3人でケーキを食べた。


「もぐもぐもぐ。ですが、グーテル様。あんまり出かけるのはよろしくないと思いますよ。もぐもぐもぐ」


「お土産買ってくるからさ〜」


「もぐもぐもぐ。う〜ん。じゃあ、良いですけど。もぐもぐもぐ」


 だそうだ。この後も、ちょこちょこ出かける事が出来た。





「では、ワーテルランド王国国王バラミュル2世陛下の葬儀を行います」


 バラミュル2世陛下の葬儀は、しめやかに行われた。パラミュル2世の喪主もしゅとして、妻であるマルグリットさん、そして、唯一の娘である、レイチェルさんが行った。



 ワーテルランド王国の諸侯が、多く参加していた。だが、参加ぜずに、国元で色々企む者もいた。そんな人達に対して、僕はボルタリア軍を動かした。


 別に戦うわけじゃなく、ただの威圧いあつ。だったはずなんだけど。


「突撃〜!」


 ガルプハルト率いる重騎兵が突撃する。すると、敵の重騎兵はあっさり逃げる。そして、ガルプハルトが追っていくと、重騎兵は反転、さらに背後から軽騎兵が襲いかかる。


 弓騎兵は、まだ無理だったが、軽騎兵はワーテルランドで、すでに採用されていた。しかし。


「軽騎兵じゃ勝てないから、重騎兵になったんでしょ。足の速い馬がいないと意味ないよ」


 グーテルの言ったとおり、背後から突っ込んだ軽騎兵は、ガルプハルト率いる重騎兵に蹴散らされ。後方から来た、重装歩兵と、兵士も加わり敵を圧倒する。


「降伏します!」


「よしっ、全軍止まれ!」


 タヴォル公コルト1世は、降伏した。


 そして、ガルプハルトはコルト1世に言う。


「バラミュル2世陛下の葬儀が終わり、新国王が決まるまで大人しくしていろ。との事だ」


「はい、かしこまりました」


 こうして、クワトワ公エンラート3世さんの留守を狙い、その領地に攻め込もうとした、タヴォル公コルト1世はガルプハルト率いる第三師団6000名によって撃退された。まあ、元々コルト1世の軍は、3000しかいなかったのだが。



 グーテルは、第三師団、ボルタリア諸侯軍、マリビア辺境伯軍、チルドア候国軍に分けて、ワーテルランド王国の東西南北の治安維持をしていた。まあ、実際戦闘になったのは、第三師団だけだった。


 他にワーテルランド王国で、戦かおうとする者はなく、ローシュ公国も動きは無さそうだった。



「となると、後は、次期国王と、クラーコフ公か〜」


 バラミュルさんの葬儀が終わると、ワーテルランド王国の諸侯を含めて、それらについて話し合う予定だった。だけど。


「上手くいくかね~?」

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