第六章 chapter6-3
「約束だからね」
「約束?」
「うん」
ここはどこだろうか、私は夕暮れの小さな公園にいた。
隣にいる子は誰だろうか、とても大切な友達な気もするが、私には思い出せなかった。
「約束ってなんだっけ?」
先ほどからずっと背中を向けているその少女に私は聞いた。
「約束……覚えてないの?」
少女のその寂しげな声に私は少女とした約束というのを思い出そうとするが、それはまるで頭の中に霞が掛かったように思い出すことが出来なかった。
「ねえ、あなたは誰?私のお友達?」
「それも忘れちゃったんだ、約束だけじゃなく……」
寂しそうにする、その少女の事を私は無性に思い出したくなった。
「約束……。ごめん今思い出すからちょっと……ちょっとだけ待って」
私は彼女としたという約束を必死に思い出そうとしたがどうしても、何度思い出そうとしても思い出すことが出来なかった。
それが私にはとても悔しくて、悲しくてどうしようもなく感じられた。
そして夕日ををじっと見つめる少女の背中をどれだけ眺めていただろうか。
彼女は大切な友達であり、私はとても大切な約束をしたような気がしていた。
だがその内容についてはいくら考えても思い出すことが出来なかった。
しばらく私と少女はそうしていたが私は意を決して彼女にこうお願いをした。
「……ねえ、顔を……顔を見せてくれない?そうしたら……、そうしたら約束を思い出せるかもしれない」
その言葉を聞いて明らかに落胆した声で少女はこう言った。
「本当に思い出せないんだね……、私は……私の名前は……」
そう言いながら私の方に振り向こうとする少女の姿は、真っ赤に輝く夕日の光に飲み込まれていった。
******
「桜夜、大丈夫?立てる?あいつら大事にしてるとか言ってた癖に怪我させてるじゃない」
――カタン――
チョーカーが地面に落ちる、その音をきっかけにして私は私の事を呼ぶ声をぼんやりと聞き取ることが出来た。
ぼんやりとした視界が徐々にだが自分の物となっていくのを感じていたが、それでもまだ自分の体が自分の体でないような、そんな違和感を感じ続けていた。
ぼんやりとする意識の中、私は腕に巻かれたハンカチを見た。
どこかで見た様な懐かしいそのハンカチを見た瞬間、それがトリガーとなり私の中で何かがはじけた、しかしそれを認めることは出来なかった。
「……桜夜?」
心配そうにの彼女は私の事を見、俯いた雪声の声は私の覚えてる友達の声そのものだった。
俯いた彼女の顔に、幼い頃に会えなくなった友達の顔が重なって見えた。
「とりあえず話は後で、立てる?」
雪声は私の事を支えながら聞いてきた。
「う、うん、なんとか……」
私はまだ少しもうろうとする意識の中、ふらつきながらも何とか立ち上がる。
そして腕に巻かれているハンカチに気がついた。
腕に巻かれているその草臥れたハンカチに私はとても見覚えがあった。
「……これは……まさか……ね……」
私はその見覚えのあるハンカチを確かめようと手を伸ばすが、かけられた声に今はそれどころではないと手を止めた。
「取りあえずここから逃げるよ?」
「ここがどこなんだか全然わからないけど、わかった……」
私は彼女が誰なのか混乱してわからないまま走り出した彼女についていこうと走り始める。
「私は……桜夜……、あの子は……」
背中を追いかけながら、あの夕焼けの公園で別れたはずの少女の姿が重なって見える少女に私は混乱していた。
「私……さっき彼女の事を雪声(ゆきな)だと思っていた……、なんで、彼女はもういないのに……」
走りながら私は混乱する頭を整理しようと必死になっていた。
******
「……やれやれ嬢ちゃん達はもう行ったかな?」
先ほど雪声に殴られた頭をさすりながらファビオが立ち上がる。
「思いっきり殴るんだもんな、危うく本当に気絶するところだったわ」
そう言いながら、部屋の中にある監視カメラが壊されているのを確認したファビオは床で完全に気絶してのびているノエルを起こしに掛かる。
半身を起こして背中に活を入れるとノエルは目を覚ます。
「あ、兄貴大丈夫ですか?。俺てっきり……」
心配して飛び込んできそうなノエルをばつが悪そうにファビオは見た。
「あー、あのな、実はさっきまでの殆ど芝居だったんだわ。お嬢ちゃんの持っていた
銃には安全装置が掛かったままだったしな、気がついてなかったみたいだが……」
「え?それ本当ですか?」
ノエルは心底驚いた様子で聞き返す。
「だから脅された振りをしていたんだよ。お前には悪い事をしたが……」
「で、でもなんでそんな事を?僕達の任務はあの娘を捕まえることの筈じゃ」
「さあな、俺にもよくわからん。ただなんかこうした方が面白くなりそうなそんな気がしたんでな」
「面白いことですか……」
ノエルはよくわからないといった様子で天井を眺めるが、あっと何かを思い出したように声を上げる。
「そうだ兄貴、さっき魔法がどうの言っていたじゃないですか、あれどう言うことなんですか?魔法なんて本当にあるんですか?」
そのノエルの言葉を聞いてファビオはこめかみに指を当てて下を向いた。
「ああ、それ覚えていたのか……。面倒くさいが、ここらが頃合いかもしれないな」
「頃合い?なんのですか?」
「まー俺についてきて組織に入っただけのお前が知らないのは当たり前だしな、取りあえず部屋に戻ってからゆっくり説明してやるよ」
「本当ですね、変なごまかしはいらないですよ」
そう話ながらファビオとノエルの二人はその場を離れたのだった。
******
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます