第五章 chapter5-2

 工場跡を出て私を連れ出した二人はその足で奥に止めてあった車の後部座席に意識を失った私を乗せた。

 そしてそのまま二人も車に乗り込むとそのまま発進させた。

 しばらく車を走らせた男達は郊外に建っている周囲に人気のあまりないとある研究施設へとやってきた、地下駐車場へと入ると一番奥まった所まで車を進める。

 そして助手席から男の一人が降りると、白い壁に手を当てる。


「ファビオだ」


 声紋とあてられた掌をサーチするように光が走ると「ピピッ」という音が周囲に響く。

 そして今までなにもなかった壁がガタンと音を立てるとゆっくり開いていく。

 ファビオと名乗った男は再び車に乗り込むとそのまま奥へと進んでいった。

 車が進むと壁が元のように何もなかったかのように閉まった。


「しかしこううまく行くとは思わなかったな」

「ですね、簡単に人質交換に応じるとは……」


 男達は車を止めた。

 そして車から降りるとそのまま後部座席の気絶したままの私を車から降ろした。

 先ほどファビオと名乗った男がそのまま私のことを肩に担ぎ、白い壁に囲まれた建物の中を歩いて行く。


「アイドルをこういう形で連れ込めるなんて思わなかったですよね、兄貴」


 私のことを担いで歩く兄貴と呼ばれたばれたファビオの後ろから小柄の男が車に扉を閉めると追いかける。


「ああ、そうだな、こいつは貴重な検体だ、変なことを考えるんじゃないぞ、ノエル」

「判ってますよ、変な事って何ですか、僕がそんな事をすると思ってるんですか」

「いやまぁ、無いとは思うけどな。しかしお前もこういう格好すれば、もっと年相応に見られるんじゃないのか?」


 いつも童顔と言われる為に不機嫌になっているノエルのことを思い出し、肩に抱いている私の着ている服装を見ながら言った。


「いいんですよ、僕はこれで。そんな服着たって似合いいやしないし……」

「そんな事はないと思うけどな……、さてと、指示された部屋はここか」


 ノエルの言葉を否定しながらファビオは電子ロックを解除すると扉を開ける。

 肩に担いだ私のことをファビオが下ろそうとすると、その動きで目が覚めたのか手足をばたばたと動かして暴れはじめる。


「っと、ここまで来て暴れないでくれよ」


 先ほど工場跡での時とは違い無軌道に暴れるその行動はまるで男達の脅威にならなかったが、その衝撃で、私の頭につけてあったウィッグがゆっくりと地面に落ちる。


「兄貴、こいつは……」

「ああ、俺としたことがしっかり確認しなかったのが……」


 私の腰を押さえた状態で、ファビオはかりこりと顎を掻いた。


「悪いなお嬢ちゃん、もうしばらくおとなしくしてくれ」


 ファビオは手にしたスタンガンを最低出力で私の剥き出しの肌に当てる。

 『バシッ』という音と共に私の体はぐったりと力を失う。

 意識を失った私のことを備え付けのベッドに腰掛けさせるとファビオは床に落ちたウィッグを拾い上げる。

 ファビオは拾ったウィッグをノエルに渡して部屋から出ると再び電子ロックで鍵を掛ける。


「しかし、あいつは誰なんでしょう?」

「判らん、がどこかで……」


 ドアの横に取り付けられた小さなモニターで部屋の中にいるぐったりと力なく座る私のことを見ながらファビオは「ああ」、と思いだした。

 今回人質にした娘と一緒にいた娘だ、確か。そうなると対象ともまったくの無関係では無いという事か?」

 ファビオは考え込むが、今考えても答えは出ないという結論に辿り着くとその場を離れる。

 後に残されたノエルは、一瞬私の囚われた部屋を見たが、ファビオのことを追いかけた。



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