第三章 chapter3-2
「雪声……、今一人?」
彼女の背中から私はそっと声を掛けた。
私に声を掛けられ、手にしたスマートフォンから視線を上げた。
「ええ、一人だけど、何か用ですか?」
「ええっと用って程じゃ無いんだけど……。一人だったら一緒に帰るのとかどうかな?って思っったんだけど。あ、もし同じ方向だったらって事ではあるんだけど」
私の提案に少し考え頷いた。
「良いですよ。特に予定があるわけではないですし」
「だったら、これからちょっとお茶でもしてかない?少し話とかしてみたいし、みかさもいいよね?」
「私も特に用事はないし大丈夫だよ」
「……そう言う事なら私も大丈夫です」
二人の返事を聞いて私はどこに行こうかと考える。
考えながら雪声の声音が嬉しそうな響きがあるように、私には思えた。
私達は青になった交差点の横断歩道を歩きながら、どこのお店に行くかを話し合っていた。
「それでどこに行く?」
「そうだね……、雪声さんは珈琲と紅茶だったらどっちが好き?」
「私はどちらでも……、ところでお茶をするって何をするんですか?」
「「え?」」
私とみかさはその雪声の言葉に思わず声が重なる。
雪声のその言葉の真意を考え、まさかと思いつつも私は彼女に聞いた。
「それってどこでお茶をするかとかそう言う話だよね?『お茶をする』って言葉の意味がわからないなんてことは……」
「お茶をするって言葉の意味がわからなかったんだけど……おかしいですか?」
「それ、本気で言ってるの?」
どこかずれたところがあるとは思ってはいたが、まさかここまでとは思わなかった私はつい口元に笑みを浮かべる。
「そっか雪声はお茶に行った事ないんだ、それじゃあ教えてあげるよ」
「……そう?ありがとう」
「やっぱり雪声さん不思議な人ですね」
きょとんとした表情を浮かべる雪声に向かってみかさが声を掛けた時、それは起こった。
私達以外は待っていない人通りの少ない交差点を渡りきると、背後から突然飛び出してきたバンが急ブレーキを掛けて止まる。
「危ない!!」
私達は突然やってきた車を避けようと慌てて動く。
止まった車の扉が激しい勢いで開き黒いスーツに身を包んだ男達が車から出てくると手慣れた様子で男達は私達の事を捕らえようと掴みかかってきた。
「いやっ!!何するの!!」
「離しなさい!!」
口々にみかさと雪声が男達に叫ぶ。
車に対して一番近くにいたみかさと雪声の二人を男達はまず捕まえようとしたが、男達の腕をかいくぐりみかさが雪声の事を私に向かって力一杯突き飛ばした。
「ちっ、時間はかけられない」
「行くぞ」
男達はみかさの事をそのまま車に連れ込むと、その場から慌てて走り去った。
みかさだけがいなくなったその場で私達は呆然と立ち尽くした。
******
「な、なんだったの……、警察……警察に連絡しないと」
私は慌ててポケットからスマートフォンを取り出し、警察に連絡しようとした。
「警察には連絡しないで」
しかしそれを雪声が有無を言わせぬ迫力で、私の動きを制して止めた。
私はその迫力に押され、電話を掛ける手が思わず止まる。
そして私から見て雪声はこんな状況にしては、落ちついていた。
その雪声の姿を見て私も徐々に落ち着きを取り戻していく。
「ひょっとして今の雪声のファンとかそういうのなのかな?ストーカーっていうには激しすぎるけど……」
したたかに打った腰を押さえながら私は立ち上がった。
「……ごめんなさい……」
雪声も立ち上がりながら、そして小さい声でそう呻くように言った。
その言葉に彼女が何か知っていると言う事を理解した。
「彼らが誰か知っているの?雪声……」
私のその言葉に雪声は小さく頷いた。
「説明はする……でも少し待って」
雪声はそう言ってポケットからスマートフォンを取り出し、どこかへ電話を掛ける。
『そう、彼らが私達の事を……。
……桜夜とみかさが巻き込まれて……それでみかさが……
……だからまずはここに来てもらえる?』
雪声はスマートフォンに向かって誰かと話して私の方を見た。
「どこに電話したの?」
「すぐに判るわ……すぐに」
雪声のその言葉の意味は先ほどの電話によって呼んだ青い軽自動車から降りてきた男によってすぐにわかる事になった。
そして軽自動車の扉が開き、一人の男性が降りてきてこう言った。
「遅れてごめん、まずは詳しい話を聞かせてもらえるかな」
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