第二章 chapter2-1
「さっきは災難だったね」
授業が終わりクラスメイト達が帰宅していく中、みかさが私の席にやってきて先ほどのことを話しはじめた。
「まさかああいう事で皆の笑いものになるとは思わなかったよ」
私は照れながらロッカーの上に置いてあったギターを取ってきて、ギターカバーを外し、つま弾きはじめる。
「さっきのは雪声さんのことを見ていたの?」
「あ、やっぱりばれてる?」
「そりゃさっきの今だからね」
「私がどうしたんですか?」
私とみかさの会話に予想外の声が割り込んでくる。
「え?」
「何か私の事を話していたみたいですから」
私とみかさの視線の先にはさも当然といった様子で、近くの椅子に座り二人の様子を見る雪声の姿があった。
そして雪声はそのまま私とみかさのことを見つめていた。
「雪声は帰らないの?私達はこれから練習してから帰るんだけど……」
「練習ってバンドのよね?」
「そう……だけど」
「見学させて貰うわ、問題ないと思うのだけど?」
私とみかさは雪声発した予想もしなかった言葉に二人共揃って言葉を失った。
そして私の机に置いてあるノートを雪声は手に取った。
手にしたノートの中をぺらぺらとめくり少し意外そうに頷く。
「コピーバンドとかなのかと思ったらオリジナルの曲をやるバンドなのね」
「ちょっ、勝手に中を見ないでよ」
私は恥ずかしそうに赤面し慌ててノートを雪声の手から奪い返す。
乱暴に奪いされたことに対して動じた様子もなく雪声は二人に質問を投げかける。
「ところでバンドって言っていたけど、他のメンバーは?」
「他のメンバー?いないわよ、私とみかさの二人、これで全員」
「そうなの?二人って少なくないの?」
「そりゃ……」
言いかけた言葉を私は飲み込むと、雪声のことを睨みつけた。
「練習の邪魔しに来たの?それとも見学に来たの?」
「見学しにですよ」
さも当然とでも言うように、相変わらず私の言葉など意にも介してない様子で返してくる。
その様子に私は苛立ちを隠せずに手にしたギターを乱暴に弾き始める。
みかさがそのギターにあわせてキーボードの鍵盤を叩くがその私の演奏に乗っていないのは感じられた。
しばらく黙っていた雪声が再び口を開く。
「やっぱり何か少し足りない気がするね。二人は他のメンバーを探したりそういう部活に入ったりはしないの?」
その雪声の言葉で二人の演奏の手が止まる。
明らかに私の表情が硬くなりギターのピックを持つその手が震える。
「ごめん、ちょっと外の空気を吸ってくる」
私はそう言ってギターを肩からおろし机の上に置くと、ゆっくり席を立ちながら廊下へと続く扉を開けて外に出て行った。
そのどこか落ち込んだ私をみかさは心配そうに見送る。
「……私……、何か悪い事を言いました?」
その雪声の問いにみかさは答えるべきか少しの間逡巡したが、黙っていても仕方ないと思い答えることにした。
「……少しね……」
「……何が問題だったのか判らないし、謝るにしても何も判らなければどうしようもないので、差し支えなければ何があったか教えてもらえませんか?」
雪声のその言葉にみかさは考え込んだが雪声であれば、他の生徒に広まる可能性も低いと思い頷いた。
「わかりました、本当は私も余り思い出したくはないんですけど……」
そしてゆっくりとみかさは過去にあった事件を話しはじめた。
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