『トイレの聖女』と言われた彼女に『聖水』を要求するとなぜかやたら顔を真っ赤にしながら渡してくるんだがなぜだろう?
高野 ケイ
第1話 『トイレの聖女』
「レイン……わが街の平和は貴公にかかっているのだ。頼む。聖女様から何としても聖水をもらってくれないか」
「いや、俺にそんなに期待をされても困るんですが……」
俺は上司である騎士団長に言われて、最近目覚めたという聖女様の部屋の前までやってきた。聖女は通常その力に目覚めた場所の名前を付けられる。有名なのは大聖堂で祈っている時にその力に目覚めた『聖堂の聖女』ジャンヌだろうか。
この部屋の主である彼女はトイレで目覚めたので『トイレの聖女』と呼ばれているのだ。ちょっと同情してしまう。
そんな彼女の能力はアンデッドを瞬殺できる強力な聖水を作り出すというものだ。その効果は単なる修道女にすぎなかった彼女が何体ものアンデッドを撃退したことが証明になるだろう。
「彼女は大変気難しくて、誰が行っても聖水は出せないというんでしょう? 俺でも結果は変わりませんよ」
「ああ、そうだが……、貴公と彼女は同じ孤児院の出身なんだろう? 昔のよしみで何とかならないだろうか? ここ最近のアンデッドの攻撃は激しすぎる……彼女の聖水が必要なんだ」
「まあ、確かに昔はお兄ちゃんって慕ってくれていましたが、最近は会ってもいないんですよ……」
「頼む……貴公しかいないんだ……今度ご飯でもおごるから」
いつも苦労をしている団長に頭を下げられまでしたらさすがの俺も断れない。というかいつも強気で見目美しい『騎士団内「く、殺せ!!」というセリフが似合う女騎士ランキングNO.1』である彼女にこんな風にお願いまでされたら断れないだろう。
いや、別に美人と食事とかデートじゃね? とか思ったわけではない。
「ご飯もいいですが……今度『くっ、殺せ』ってむっちゃ悔しそうな顔でいってくれませんか?」
「何を言っているのだ、貴公は……?」
すごい怪訝な顔をされてしまった。すっげえ好感度が下がった気がするぜ。ぴえん。
「誰が来ようが聖水は出せません、お帰りください」
団長と別れて聖女の部屋をノックすると、固い声が帰ってきた。昔はもっと可愛げがあった感じなのだが……まあ、いきなり聖女扱いをされてあいつも気を張っているのかもしれない。元々人見知りだしな。
「俺だよ。レインだ。話があるんだ。開けてくれないか?」
「え? レインお兄さんなの!? ちょっと待っててください。準備が終わったら開けますから!! ああ、どうしよう。お洒落な寝間着何てもってないよーーー」
俺の言葉と共に部屋の中が騒がしくなった。何やらどんがらがっしゃんという音がしているが大丈夫だろうか? ケガとかしてないよな。ちょっと心配になってドアノブに手をかけたが昔勝手に部屋に入って無茶苦茶怒られたのが頭によぎる。
俺は彼女が中々起きて来ないので、心配して、ドアを開けたらたまたま下着姿を彼女を見てしまったのだ。
『レディの部屋に勝手に入るなんて、レイン兄さんの馬鹿!!』
そう言って拗ねた彼女は半日ほど口をきいてくれなかったのだ。今回は聖水を何とか出してもらえないかとお願いする立場である。下手な事をして彼女の機嫌を損ねないほうがいいだろう。
「レイン兄さんお待たせしました。入って大丈夫ですよ」
そう言ってドアから顔を出したのは、銀髪の満面の笑顔を浮かべた美少女だった。しばらく会っていなかったが、十五歳という成長期だからか、以前会った時に比べて色々と大きくなっている。特に胸とか、胸とか!! てか、なんで部屋にいるのに余所行きっぽいワンピースを着ているのだろうか?
予想外に美少女に成長している妹分に俺は少し驚きながら、返事をする。
「ああ、久しぶりだな、バーバラ。お邪魔するぞ」
「はい、レイン兄さんと久々に会えて嬉しいです!!」
そうして、俺は『トイレの聖女』と呼ばれる幼馴染のバーバラと再会をしたのだった。
彼女はなぜか『聖水』を出すのを嫌がるらしいが、幼馴染だからといって、俺が頼んだくらいで出してくれるだろうか?
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