第21話 霰魔法1
「風と氷の混合……。そうか、そうだったんだ」
『右手で風魔法を起動させながら、左手で氷魔法ね』
ノアの言葉が、頭を過る。
……浮く氷が、私の周りを舞っている。
動と静の混合が、イメージできた。
でも、これだけでは、ダメだ。
これは、魔力を具現化しただけなので、今は何の奇跡も発現していない。
この〈浮かぶ氷〉に、更にイメージを加える。
「風は器用さの象徴。そして、氷は知性の象徴……」
この国では、誰でも暗唱できる属性の特性を口にする。
まずは、防御だ!
目の前に火魔法の矢が迫っている。
私にとって、最も相性の悪い属性……。
軌道を変える? 相殺する?
「いえ……、違う! 吸収する!」
私の生み出した、氷が光を放つ……。私のイメージを氷が再現してくれる。
その氷に触れた火魔法の矢が、吸い込まれるように様に消えてしまった。
「なに? 炎が消えた?」
相手は、驚いている。
まあ、私も驚いているんだけどね。
「……ふぅ~」
大きく息を吐き出す。
今までが嘘みたいだ。魔力が活性化しているのが分かる。
それと、頭がとてもクリアだ。
「あれほど嫌っていた氷魔法の影響かな? 覚醒した感じがするわ」
目の前では、無意味な火魔法が、次々に放たれては、消えて行く。
聞くに堪えない、罵詈雑言も受け流している。重要な単語のみ頭に入って来る感じだ。
……ここで背後から、なにかが来た。魔力の流れは見えても、速すぎると反応できないんだな。でも、私の耳は、『パリパリ』という雷の音を拾っていた。
一秒にも満たないけど、先手を打って防衛体制を構築する。
「雷は素早さの象徴。水を貫き霧散させる!」
胴薙ぎの一閃が、放たれる。鋭い一撃だ。
──パキン
「なに!?」
私の氷に触れた剣が、折れて弾け飛んだ。いくら速くても、攻撃を読まれたら折られるわよ? まあ、見えないほど速いんだけど、攻撃が直線的過ぎる。死角からの攻撃でなければ、防ぐのは簡単だった。
それと……。
「……私の属性は、水じゃないんだけど?」
ここで顎を蹴り上げるけど、手ごたえが軽かった。それほど、前がかりという訳でもないのか。
この人達は、達人クラスだと思われる。
……また、間合いを取られてしまった。
前後から挟まれる立ち位置になってるな……。
「なんだその魔法は!? 氷なら炎で、水ならば雷で相殺できるはずだ!」
答えてやる理由もないけど、教えてもいいかな。
今は、余裕が出て来たし。
それに、時間稼ぎが目的でもあるしね。
「……
「あられだと? 嘘だ! 聞いたこともない魔法じゃないか。
ふん。まあいい、防御で手一杯なのはバレバレだ! 発動してまだ間もないんだろう?」
半分アタリで、半分ハズレ。
左手を、雷属性の剣士に向ける。
「あらそう? では、攻撃してみるわね」
私に纏っていた氷の粒が、雷の剣士に向かって襲って行く……。
剣士は、雷魔法を身に纏いカウンターを狙うみたいだ。
まだ、私を倒せると思っているのが、命取りよ?
触れた氷の粒が、燃え上がる。
「なに!?」
もう、遅いって……。
さっき受けた、数発の火魔法をここで開放する。
剣士は、雷魔法の防御を消滅させられて、全身を炎で焼かれて行く。
絶叫が響き渡る。
剣士は、転げ回って火を消した。だけど、もう立てないと思う。
「本当であれば、私がああなってたんだな……」
顔に火傷を負った時の事を思い出す。
目の前の剣士は、全身を焼かれて倒れた。まだ、生きてはいそうだけど、高度な治療を受けないと再起不能だと思う。
また、それほどの治療をするのであれば、足が付く。
そうなれば、身元も割れるはずだ。
私は振り返り、残り魔法士の方を見た。残り2人かな? 隠れているのがいなければだけど。
それと驚いていて、不意打ちすらして来ないのか……。
雷属性の剣士が、リーダーだったのかもしれない。
ここで、衛兵達が来た。異変に気が付いてくれたんだと思う。
魔法士達が、散会する……。
深追いは……、止めよう。
「君、大丈夫か?」
「いきなり襲われました。冒険者ギルドの盗難に関わっている人達だったみたいです。一人確保しました。まだ息はあると思います。捕獲と治療をお願いします」
「……うむ。協力感謝する。
それで、その光っている物はなんだ? 月明りに照らされて、キラキラと輝いているが? 魔法なのか?」
口角が上がっているのを自覚する……。
「……私の、いえ、本当に私だけの属性魔法です」
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