振った女が化けて出た

ベームズ

翌朝

朝、


昨日のことがまるで夢であったかのような、ぼんやりとした記憶を振り返りながら、そのたびに重い気分が全身にのしかかって気力が削がれていく。

「……今日学校休もうかな」


毎朝の起きる時間を過ぎても布団にくるまったまま、暗い気持ちに押しつぶされる。


「アキ〜!朝よ〜」


心配した母の声すら煩わしくなり、一層深く布団に潜り込む。


トゥルルルル、トゥルルルル……


……こんな朝から電話なんて、


そう思っていると、母が出たらしい、呼び出し音が止む。


「はい……はい……ええ⁉︎」


母の大袈裟な叫び声にイラついて、一言文句を言ってやろうと勢いよく布団から飛び出、部屋から出る。


「アキ‼︎すぐ起きて‼︎アキ‼︎」


電話を終えたらしい母の慌てた声が、何やら只事ではないことが起きたらしいことを物語る。


「何?」

色々考えの整理がつかず、苛立たしげに問う。


「アキ‼︎昨日蜜柑ちゃんと一緒に帰らなかった?」


母から唐突に蜜柑の名前が出て、昨日の色々が頭をよぎる。


中学の時から蜜柑は何度かうちに遊びにきたことがあり、母とは面識があった。


母は蜜柑のことを大層気に入っており、何かと気にしていた。

隙あらば根掘り葉掘り聞いてくるから苛だったことも一度や二度ではない。


「いや?学校で別れたけど?」


そんな母の慌て方から蜜柑に何かあったらしいことを悟り、思考が一気に冷める。


さっきまでの苛立ちより、蜜柑の身に起きたことを知りたくて、冷静に答える。


「なんで一緒に帰らなかったの⁉︎」

「えっ⁉︎」


僕の返答を聞くや、顔を真っ青にして叫び散らす母。


「急になんだよ?」

「なんだよじゃないわよ‼︎……ああなんてこと……」


これまで見たことないくらい取り乱した母にどうしていいか分からず立ちすくむ。


「……蜜柑ちゃん、昨日亡くなったんだって」


「……は?」


母の口から信じられないことが出てきた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る