帰り道
瑠璃
帰り道
そうして、私たちは手を繋いで家路を急いだ。
どこかで聞いたはずの歌と、足首を冷やす水と、穏やかな横顔を見ながら私たちは歩いていた。
彼は、弱い人だった。私は21になるまで、彼が嫌いだったし、憎んでもいた。記憶の中の彼は、仕事はほとんどできていなかったし、酒と精神薬を飲んでいた。
彼と離れてから、私はずっと考えていた。
どこから壊れてしまったのだろう。
あと何年巻き戻せばやり直すことができるのだろう。
その思いは、いつしか自分を明確に責めるようになった。
普段はコップの底に溜まっている泥は、時々湧き上がりあれから10年が経っても減ってはくれなかった。
ずっと守って欲しかった。
何があっても大丈夫だと言って欲しかった。
テストの点が悪くても、家の手伝いがあまりできなくても、ありのままの私を認めて欲しかった。
私は、家族をするなかで、自分が家族を守り、両親の間でうまく立ち回り、喧嘩を減らし、笑顔を増やす、そんな家族を「作ろう」と邁進していたのかもしれない。
その望みが、努力が、水泡に帰してから、私の家族への想いは行き場を無くし、怒りや憎しみとなって沈澱した。
22になったある日、突然コップの中に溜まっている泥がほとんど消えていることに気がついた。
何があったわけではない。ただ、これまで通り生活している中で泥が減っていた。
いつ減ったのか、何が原因だったのか、考えてもわからなかった。
しかし、私はあの頃の私と比べて、確実に自分の人生を自分で生きることができるようになっていた。
何が原因だったかはどんなに考えてもやはり分からなかった。
彼を許したわけではなかった。
でも、泥は確かに減っていた。
彼を許せない私を、両親の喧嘩を止められなかった私を、弱かった私を、もしかしたら知らないうちに私は許すことができていたのかもしれない。
だから、私たちは足首を冷やすどこまでも続く道を、あの頃父に教えてもらった歌を口ずさみながら、歩くことができていた。
この道がどこまで続くのか、いつになれば家に着くのか私たちには分からなかった。
ただ、私は家に帰るために道を歩いていた。
帰り道 瑠璃 @lapislazuli22
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