9.さらにお嬢様のはじめてを逃しました
最も有難いことには、くーちゃんはかなり大人しい子猫でしたので。
朝までお嬢様にぴたりとくっついて眠っていたようです。
朝も目覚められたお嬢様に撫でてと自ら顔を寄せていく甘え上手でして、お嬢様との相性はとても良く。
お嬢様の朗らかな柔らかい微笑みをいとも簡単に引き出して見せたのでした。
朝も大変なことになったのではないか、ですって?
えぇ、それはもう。
バタバタと倒れる同僚たちが相次ぎまして、私共にはしばしお嬢様と子猫が戯れるお姿に慣れる時間が必要となった次第です。
私ですか?
それは内緒にしておきますわ。
お嬢様とご一緒した大事な記憶をこれ以上はもう……。
ちなみに仕事に支障が出てしまいましたのに、旦那様からも若様からもこの点に関しまして苦言などはありませんでした。
お二人もそれぞれお顔や胸を押さえられた状態で身悶えておりまして、しばらくはお仕事どころではありませんでしたからね。
このように素晴らしい職場ですから、安心して──え?その間、領地の運営や邸の管理などはどうしていたか?ですか。
どうでしたでしょう。そのような公爵家の問題は些事ですから、忘れてしまいましたね。
お分かりの通り、ここで働くうえで一番大事なこと、それはお嬢様お一人なのです!
そしてまた、お嬢様に恙なく日々を過ごしていただくためには、皆様への手厚いお世話は欠かせません。
では、最後に皆様をご紹介していきましょうか。
そんなお嬢様が子猫に名前を与えられたのは、はじめての夜に旦那様のお部屋に入ってからのことだったようです。
その瞬間を私が逃したことは、悔やまれてなりませんが。
旦那様は「母親が見付からないのであれば、シアが母親になるかい?」と優しく尋ねられたそうで。
頷いたお嬢様に、親になるならば名付けてはどうだろうかと旦那様はご提案されたのでした。
「このこはくーちゃんとよぶことにきめたのよ。マリー、どうかしら?」
倒れぬよう気を確かに持って、「素晴らしいお名前です!」と答えることが出来た私を今は褒めたいと思っています。
さてさて、大人しく扱いやすかったくーちゃんは、さすがお嬢様の猫だと褒められて過ごしていたのですが。
曲者は、その後に現れた二匹の子猫の方でした。
それがみーちゃんとうーちゃんです。
え?猫たちの第一声が分かった?
だから何だと言うのでしょう?
お嬢様の名付けはあれだとは何ですか、あれだとは?
分かりやすく素晴らしいセンスではございませんか。
お嬢様に名付けられた皆様がどれだけ幸せものか……。
お嬢様の名付け、尊い……。
続いて他の皆様についてですが……どうやら今日はこの辺りで話を終えなければなりません。
みーちゃんとうーちゃんについては、また別の機会に。
何故ですって?
見てくださいまし。
お二方は気分が乗らない様子でございましょう?
とても賢い皆様ですから、話題に出しますと気にされてしまうのですよ。
え?猫なのに?
お嬢様の皆様は特別なのです。
ですからせめてご紹介だけ。
お嬢様のご希望で若様が開発されたキャットタワーなるものの最上段におられるこちらがみーちゃん、そしてそちら、お嬢様のご希望で若様が開発された専用ベッドの上におられるのがうーちゃんです。
今すぐにお嬢様のお側に侍らないことに関しましては、少々気になるところですが。
くーちゃんを独り占め出来て嬉しいわ、とお嬢様が喜んでいらっしゃるので良しとしておきましょう。
お嬢様、くーちゃんを抱くお姿、今日も女神です。
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