銀の道

飛辺基之(とべ もとゆき)

和辻わつじ哲郎の面白い文章がある。

『アフリカの文化』というタイトルだ。

フロベニウスの著作を紹介したその書物によると、かつて中世、アフリカには発達した文化があった。

海を航海する船乗りが見つけたという。


街路樹が続く道。

一日中歩いても続く実り豊かな畑。

そこに住むアフリカの住民は様々な衣装をまとっていた。


中世アフリカにそんな優れた文化があったのだ。


僕が高校の『倫理・社会』で和辻哲郎を学び、一番町の古本屋で著作集を漁っていて、その『アフリカの文化』を見つけた時、すごく興味深く、面白く、印象に残った。

そして、幼い頃に亡くなった親父が言っていた不思議な言葉を思い出した。


貴仁たかひと、お前が毎日歩いているこの仙台の愛宕橋あたごばしの道はな、『銀の道』だ。東京の新宿などに比べたら銀かもしれない。しかしな、お前はその愛宕橋の銀の道を毎日歩いているだけで、銀の道を歩く銀賞が決まってるんだ。けっしてプライドを捨てるんじゃないぞ」


時は昭和52年。

僕はまだ小学2年生だった。


意味など考えもしなかった。

別に愛宕橋の道が金でも銀でも良かった。

僕はその頃は、まだ全く興味が持てなかった。

その意味は、遥かに時間が過ぎた二十歳の時に分かる事になったのだった。


━━━━━


その昭和52年。

僕はよく土樋つちといから細い道に入り、穀町こくちょうの本屋に漫画を買いに行っていた。

その細い道からは、遠くの工場のものだろうか?いわゆるお化け煙突みたいなものも見えていた。

初夏の青空の下で、真冬の青空の下で、僕は光に包まれて歩いていた。


広瀬川ひろせがわに沿う、世界に点在する銀の道のひとつを。


二十歳で過労に倒れた僕は、その数々の銀の道で息をついて生きてきた。


(つづく)

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