第6話  オーリの正体

 水浴びが終わって、服を着ようとすると、オーリがどこからか着替えを持って来た。


「神殿で着替えをして、置いて行った旅人の服です。洗濯済みですから、良かったら、どれかをお召してください」


「ふ~ん。全部、普通だな。俺はお前の着ていた服が良いぞ~」


 キースは、オーリの着ていた服を脱がせようと引っ張った。


「やめて下さい。これは、神官の服ですよ? 神官に興味があるんですか!」


「お前、神官なのか?」


 キースは目をパチクリ。


「……大神殿で、中位の神官エル・ルーストやってました」


 オーリは、モジモジと答えた。


「お前、本当の名前は何て言うんだ?」


「オルランド・ベーカルです」


 神殿事はあまり詳しくないキースでも神官の位のことは知っていた。

 キース(二十一歳)と変わらない年齢で中位ってエリートじゃね!?

 とキースは思った。


「お前、凄いじゃん。その年で中位の神官エル・ルーストって!」


「あの……僕はひっそりと目立たないように生きたいんです。中位の神官エル・ルーストの座も要りません。だから僕を早く解放して下さい」


「うん、俺もお前と同じで平凡な男として、一生を終わるはずだったんだよ。

 大伯父がついに世継ぎに恵まれずに、嫁に行った妹の子供である父上に、王座を譲るというまではな!! 一夜にして、一国の世継ぎになった俺の気持ちは分かるまい!!」


「僕だって、光の神殿(本殿)に移るように言われた時の気持ちは、あなたには分からないでしょう」


「お前が目立ちたくないのは分かるが、それはムリがあるだろう。その金髪、その顔、立ってるだけで、目立つぜ」


「やめて下さい!!」


 キースは笑った。


「……で、逃げてきたのか? 神殿を」


 オーリはドキリとした。


「当てはあるのか!?」


「いえ……」


 キースは、言った。


「取り合えずあと二日、俺に付き合え。そうしたら、後のことは一緒に考えようぜ」


 キースのどこから湧いて来るのか分からないこの自信に、信じてみるしかないオーリだった。

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